【食育】

 ああ、食育!?  早ね、早起き、朝ご飯  2008.328




 食育が大きく取り上げられるようになった。2005(平成17)年には「食育基本法」が制定され、同年4月から栄養教諭の配置が始まった。内閣府は、2006(平成18)年度から『食育白書』を刊行している。合言葉は、早ね、早起き、朝ご飯!!
 正直なところ、私はどうもこの食育が苦手である。単に私がズボラだからかもしれないが。なぜ食育なのか。文部科学省の政策を見てみよう。

 文部科学省が食育を推進する理由は、イライラするとかむしゃくしゃするといった「心の健康」と食生活との関連を重視するからである。2002(平成14)年には、文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課から、「児童生徒の心の健康と生活習慣に関する調査報告書」が出されているが、同報告書は、「心の健康」と「食事習慣」「家族の役割」「運動習慣」「休養・睡眠習慣」との相関関係を指摘している(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/05/020514a.pdf)。
 だが、資料1に見るように、親は子どもの食事にすでにかなり気をつけている。そのせいか、問題として注目されているのは、食事の内容というよりも、主に朝食の「欠食」と「孤食」である。どちらも、親や家庭のあり方を問う問題である。


【資料1】 子どもの健康のために食事に気をつけているか

Pasted Graphic

   
1998(平成10)年度『我が国の文教施策』 
    http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpad199801/index.html


■朝食は、必ず毎朝食べなくてはいけない!

 まず、朝食から。
2004(平成16)年の文部科学省「義務教育に関する意識調査」では、朝食を必ず食べる小学生は84.9%、中学生77.6%である(資料2)。この数値をどう見るかが問題だが、2005年版『文部科学白書』は、資料2から、最近の子どもたちは「基本的生活習慣が乱れて」いるとし、「朝食を食べない日がある小学生は約14パーセント、中学生は21パーセントに及んでいます。こうした基本的生活習慣の乱れは、学習意欲や体力低下をもたらすとともに、非行の一因とも指摘されており、子どもの基本的生活習慣を育成し、生活リズムを向上させることが重要な課題となっています」と書いている〔第部第2121)〕。
 朝食を欠くことが、非行の一因になるというのである !? 


【資料2】児童生徒の朝食欠食状況
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2005(平成17)年版『文部科学白書』
    http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpba200501/001/002/0102.htm


 だが、近年、子どもの生活習慣が乱れているわけではない。2005(平成17)年の「国民健康・栄養調査結果」では、毎日朝食を食べる小中学生は9割で、この割合は1988(昭和63)年調査からほとんど変わらない(資料3)。しかも、欠食率とされる1割弱は、「毎日食べる以外」の数値であって、ほとんど食べないとか、全く食べない子どもの割合ではない。
 また、年齢別に見ると、1−6歳の朝食欠食率は4.5%、7−143.2%、15−1914.7%であるのに対し、2028.3%、3020.8%、4013.0%、509.9%である。当然のことながら、子どもの欠食率は低い。


【資料3】朝食欠食の年次推移(小中学生)

①男
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②女
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 厚生労働省 2005(平成17)年 「国民健康・栄養調査結果の概要」
   http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/05/h0516-3a.html


 しかも、ほとんどの中高生が家庭で調理したものを朝食で食べている。
2004(平成16)年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、中学生の90.9%が朝食に「家庭食」を食べており、欠食は2.2%にすぎない(菓子や果物、サプリは欠食に含まれる)。高校生は83.5%が「家庭食」、欠食は10.3%。また、外食は中学、高校とも0.7%、調理済の食事は5−6%ほどである。高校生も、コンビニ弁当が朝食というわけではないのである。
文部科学省『データから見る日本の教育
2006
http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/toukei/06122122/002.pdf


■朝食は子どもだけで食べさせてはいけない!

 では、孤食はどうか。孤食というと、塾から帰って1人淋しく夕食を食べる小学生が増加しているかのようなイメージがあるが、
2005(平成17)年の日本スポーツ振興センターの調査によると、1人で夕食を食べる小学生は2.2%にすぎない。子どもだけで食べるのは4.6%(資料4)。
 2005年度「千葉県児童生徒の食生活実態調査」でも、1人で夕食を食べる小学生はわずか0.2%。子どもだけが4.5%である。中学生でも1人で食べるのは資料4では6.9%、千葉県の調査では2.9%である。
http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/kenkou/plan_002.pdf


【資料4】朝食および夕食の共食状況
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  2007(平成19)年版『食育白書』

 
 したがって、孤食が増えていると言われるとき、主に用いられてきたのは夕食ではなく、朝食である。資料5は前掲の
2005年厚生労働省「国民健康・栄養調査」の結果だが、これによると、朝食を1人で食べている小学生は、低学年13.5%、高学年11.7%、中学生25.7%である。夕食に比べれば、確かに、1人で食べる子は多い。文部科学省の2005年度の「義務教育に関する意識調査」では、小学生20.1%、中学生41.6%。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/06/05061901/gaiyou.pdf

 だが、この厚生労働省調査では、孤食が増えているかどうかは分からない。これ以前の調査では、朝食を1人で食べるかどうかは聞いていなかったからである(なお、この調査では、夕食の孤食に関する調査項目もない)。したがって、孤食が増えていることの根拠として提示されてきたものは、資料5の②のデータにあるように、きょうだいで食べる場合も含め、子どもだけで食べる割合の増加である。2005年の数値で言えば、孤食と言われる小学生のうち、約7割はきょうだいで食べている。


【資料5】子どもの朝食

①朝食を子ども1人で食べる比率
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②朝食を子どもだけで食べる比率

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2005年厚生労働省「国民健康・栄養調査」
   http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/05/h0516-3a.html


 このように見てくると、孤食が増えていると問題にされる時のイメージと、調査結果はかなり異なっているように思える。それは、食育をめぐるこの間の政策が、一方では、きょうだいで食べる場合まで孤食に含めることによって、孤食の多さと問題の重大さを印象づけてきたからであり、他方で、週に1日でも朝食を食べないことを欠食と見なすなど、家庭の食生活を厳しくチェックしてきたからである。

 その前提にあるのは、どんな家庭でも、どんな事情があっても、親は毎朝子どもの食事を手作りし、かつ、一緒に食べなければならないという、親の責任に対する強烈な規範である。だが、すでに小中学生のほぼ9割は毎日朝食を食べ、しかも、中学生の9割が「家庭食」を食べている。にもかかわらず、食育政策はこの9割の子の親にも、さらなる食育を求める。

 あるいは、1人で夕食を食べている数パーセントの子どもや、たまに朝食を食べないことのある1割の子ども、そして、朝、子どもだけで食べている4割の小学生が問題だということなのかもしれない。
 だが、1人で夕食を食べる数パーセントの子どもとその親は、いったいどんな生活をしているのか。あるいは、なぜ4割の小学生は子どもだけで食べているか。食育政策は親の責任を強調するばかりで、夕方、仕事に出かけなくてはならない親、朝、子どもより早く仕事に出かける親など、子どもと一緒に食事のできない親と子の暮らしに想像をめぐらすことはない。