■福祉と税について考える

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【所得税】
 高額所得者ほど税率が下がる
 2011.12.25




所得税について考える

 増税が議論されています。税金にはまったく疎いのだけれど、下記の『朝日新聞』の記事を読んで、あまりにひどいのではないかと思いました。 年収1億円を超えると、かえって所得税の負担税率が下がるなんて!? 私がぼ〜っとしている間に、こんなことになっていたのですね。
 復興増税の10年か(民主党)、25年か(自民党案は30年)という議論も、単に期間や負担額の問題ではなかったのですね。これもあまりにひどい。今の中高年の負担は少なくし、35歳以下の世代には丸々負担させるわけですから。


所得税率の推移

 ということで、所得税について調べてみました。国税庁のHPによると、現在(2007年以降)の所得税の税率は次の6段階になっています。1800万円以上が最高税率で40%。

 195万円以下5
 195万円超〜330万円10
 330万円超〜695万円20
 695万円超〜900万円以下23
 900万円超〜1800万円以下33
 1800万円超40
  国税庁 http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm


 次に、所得税の税率の変化を見てみましょう。以下の金額は、東京三菱UFJ銀行の「経済情報」(No.2010-07,20103月)から取りました(財務省のHPにも載っていますが、88年までなぜか金額の区分は書かれていません)。


 1974年〜 19段階 最低60万円10 最高8000万以上75
 1984年〜 15段階 最低50万円10.5 最高8000万円以上70
 1987年〜 12段階 最低150万円10.5 最高5000万円60
 1988年〜 6段階 最低300万円10 最高5000万円以上60
 1989年〜 5段階 最低300万円10 最高2000万円以上50
 1995年〜 5段階 最低330万円10 最高3000万円以上50
 1999年〜 4段階 最低330万円10 最高1800万円以上37
  http://www.bk.mufg.jp/report/ecoinf2010/No201007.pdf


 これらを見ると、1980年代以降、「税率適用所得区分」(ブラケットというのだそうです)が簡略化されるとともに、高額所得者の税率が大幅に下げられてきたことが分かります。74年の最高税率は8000万円以上75%。それが1999年は1800万円以上37%。所得水準は70年代よりもはるかに上がり、当然、高額所得者の収入も大幅に上がっているにもかかわらず、です。1999年から2006年は、最も高額所得者の税率を引き下げた時代でした。


税収の推移

 このような税制改革の結果、所得税による税収は1990年代以降、大幅に減少しました。所得税の税収が減った要因には、景気の低迷などもあるでしょうが、消費税がそれほど減っていないことからすると、やはり高額所得者の税収引き下げが大きな要因ではないかと思います。


主要税目の税収(一般会計分)の推移

Pasted Graphic

 (注) 2010(平成22)年度以前は決算額、2011(平成23)年度は予算額。
 財務省HP http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/011.htm


消費税を上げる前に

 1970年代末以降、子ども関係の福祉予算や教育予算は削減または抑制されてきました。その一方で、高額所得者をこれほど優遇してきたとは

 80年代は景気が良かったので、高額所得者の税率を引き下げても、所得税収入は上がりました。しかし、90年代に入ると税収は減少。それでもさらに高額所得者の税率を引き下げたのは、景気対策のため、ということだったのでしょう。税金は所得再配分の手段というよりは、経済政策の手段となってしまいました。
 小泉首相が、社会の上層部が潤えば、景気がよくなり、底上げもされるといった主旨の発言をしていたことを思い出します。ですが、そうはなりませんでした。高額所得者優遇税制は、経済政策としても失敗だったということになるのではないでしょうか?

 このような税制の簡素化と高額所得者の減税は、世界的な潮流です*。しかし、『朝日新聞』の下記の記事によると、日本の税制は欧米など主要21カ国のなかで、所得格差の再配分機能が「最も小さい」ということです。
 80年代以降の税制改革の結果でしょう。ですが、それだけではありません。80年代以降、高所得者層に対して減税を進める一方で、低所得者層に対する社会保障を切り詰めてきたからです。
 1985年には母子家庭に対する児童扶養手当を全額支給と一部支給に分けるとともに、所得制限を強化しました。母と子ども1人の場合、84年は年収361万円未満まで一律月32700円を支給したのに対し、85年は、年収171万円未満まで33000円(全額支給)、171万円から300万円未満まで11000円(一部支給)としました。86年には、低所得世帯に対する児童手当の特例も廃止しました(7000円から5000円へ引き下げ)。
 2002年には児童扶養手当の所得制限をさらに強化しました。それによって、全額支給(月42370円)の収入限度額は、年収204.8万円から130万円にまで引き下げられました。この130万という金額は85年の171万円より低い水準です。しかも、生活保護の母子家庭への加算を、2005年から段階的に廃止し、20094月には全面的に廃止しました(同年8月の民主党政権発足にともなって復活)。
 こうした80年代以降の政策によって、日本は子どもの貧困率が、再配分の結果、かえって上がってしまうという奇妙な国になってしまいました。税制が破綻しているとしか思えません。

 私自身は、福祉(とくに子ども関係)や教育が充実するのであれば、消費税を上げてもいいのではないかと考えてきました。ですが、こうした税制の現状を見ると、どうかと思ってしまいます。所得税の増税では足りないとしても、消費税を上げる前に、高額所得者の負担拡大や低所得者層に対する社会保障の拡充など、考えるべきこと、やるべきことがあるのではないでしょうか。

*財務省のHPによると、かつてイギリスは11段階で最高83%(1978年まで)、アメリカは15段階70%(1981年まで)。両国も今は日本とあまり変わりません。

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/234.htm
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/036.htm



【新聞報道】ーーーーーーーーーーーーーーーー

負担、若者にしわ寄せ 復興増税、期間を延長
 朝日新聞 
20111111日朝刊
 

 東日本大震災の復興費にあてる臨時増税がようやく決着した。民主、自民、公明の3党が10日、たばこ増税を見送り、所得税と個人住民税の増税期間を延ばすことで合意。高齢のサラリーマンの負担増は少なくなる一方で、若年層の生涯負担は増える。

 当初の政府・与党案では所得増税の期間を10年としていたが、これを25年に延ばす。国・地方税を合わせて1本あたり2円のたばこ増税をやめる分の財源をまかなうため、所得税と個人住民税の負担が増加。このため、増税期間を大幅に延ばすことで1年あたりの負担額を減らすことにした。
 年収500万円の夫婦と子供2人世帯の場合、所得税の負担増額は政府・与党案の年3100円から年1720円に減る。1年あたりの負担額は見かけの上では全員が軽くなるが、負担総額は世代間で異なる。
 所得増税が始まる20131月から10年後に退職する予定だった50代以上のサラリーマンは、増税期間が25年に延びても、退職後の15年間は支払わないことになる。このため、生涯負担額は大きく減る。
 一方、政府・与党案のままだったら就職前に増税期間が終わっていたはずの子供たちの世代は、負担が増える。たとえば、いま小学生以下の世代では増税期間が10年だったら、大学を出て就職する前にほぼ増税が終わっているはずだったが、25年に延びたことで就職後も10年程度負担しなければならない。まだ生まれていない子供も数年間の負担を強いられる。
 臨時増税は、恒久的な増税の色合いを強め、野田佳彦首相が訴えていた「次世代に負担を先送りしない」との理念は後退した。
 政府は復興にかかるお金を「当初5年間で19兆円」と見込んでいるが、さらに膨らむのは確実。今回の増税は19兆円の財源を手当てするのにすぎない。
 野田政権は、国がもっている日本郵政株の売却収入などで、復興増税の規模を今より2兆円圧縮する計画だ。だが、こうした財源の捻出が思うように進まなかったり、復興費が大きく増えたりすれば、将来、追加増税を迫られる可能性もある。

 ■ 所得税の年間負担増
 給与収入  夫婦と子供2人 夫婦と子供1人   独身
 300万円    240円    960円   1360円
 500万円   1720円   2680円   3520円
 700万円   4480円   6600円   8280円
1000万円 1万4680円 1万7440円 1万9120円
1500万円 3万8960円 4万3520円 4万6280円
2000万円 7万3440円 7万8000円 8万 760円

 (財務省の試算をもとに作成。子供2人の場合、1人は16歳未満、もう1人は1922歳など一定の条件を置いており、実際の負担額は世帯によって異なる)


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(負担増を考える)
 消費増税、なぜ今 世代間の不公平深刻 借金での穴埋め限界
 朝日新聞 2011.12.6 朝刊


 野田佳彦首相が5日、「不退転の決意で臨む」と宣言し、年内をめどにまとめるよう指示した消費増税と社会保障の一体改革。なぜ、消費税率を10%に上げなければならないのか。消費増税に偏りすぎることに問題はないのか。

 ○必要性は 世代間の不公平深刻 借金での穴埋め限界

 1960年代は1人のお年寄りを働く世代9人が支える「野球チームの胴上げ型」、いまは現役3人で支える「騎馬戦型」、2050年には1人が1人を支える「肩車型」の社会になる。最近、野田首相が繰り返す言葉だ。
 総務省の人口推計などによると、1965年は、お年寄り618万人を働く世代5608万人が支えていたが、2050年には、その比がほぼ1対1に。
 お年寄りの医療や年金にかかるお金は、主に働く世代の保険料や税金でまかなわれている。少子高齢化で働く世代の負担はぐっと増えるが、引退したときは払った以上はもらえない。
 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算によると、生涯を通じて受け取る社会保障サービスなどの「受益」から、「負担」を差し引いた額がプラスになるのは、60歳以上の世代。70歳以上では3500万円のプラス、2024歳は2800万円のマイナスになる。「世代間の不公平」と呼ばれるものだ。
 国の財政の変化をみると、90年度に66兆円だった一般会計当初予算の歳出は11年度に92兆円と26兆円増えた。このうち、17兆円分が社会保障の支出増によるもの。税収は歳出の半分にも届かず、借金が増える大きな理由のひとつになっている。国の借金は11年度末で1千兆円を突破する見通しで、国内総生産(GDP)の2倍超と先進国のなかでも飛び抜けた悪さだ。
 年1兆円のペースで増え続ける社会保障費をまかなうため、働く世代の稼ぎに税金をかけるのが中心の所得税よりも、お年寄りを含めて、みんなが広く負担を分かち合う消費税の方がふさわしい、というのが政権の考え方だ。
 総務省の家計調査によると、60歳以上の世帯は平均2200万〜2300万円の金融資産をもつ。豊かなお年寄りがお金を使うときにも、相応の負担をしてもらおうというわけだ。
 政府・与党が6月にまとめた社会保障と税の一体改革案では、「10年代半ばまでに消費税率を段階的に10%に引き上げる」と打ち出した。13年秋以降に税率を78%に上げ、15年度に10%にするシナリオを描く。消費税は、社会保障分野だけに使い道を限った「目的税」とし、財政の悪化を食い止める。
 筋書き通りにいけば、15年度に基礎的財政収支の赤字の割合を半分に減らすという政府目標は、ひとまず達成できる。だが、「20年度に黒字化」という次の目標には遠く及ばず、税率のさらなる引き上げが必要になるとの声もある。

 ○問題点は 所得低いほど重税感 富裕層への課税焦点

 政権が「消費税頼み」になることには、危うさもある。消費税は、食料や衣服など切り詰めにくい生活必需品にもかかるので、所得の少ない人ほど負担感が重くなる「逆進性」をもっている。
 第一生命経済研究所の試算では、消費税率が10%に上がると、年収250万円未満の4人家族では、いまよりも年12万円近く負担が増える。一方、年収800万〜900万円の世帯の負担増は年19万円で、年収の開きほどには負担の差はない。生活が苦しい世帯を消費増税は直撃しかねない。
 一方、89年の消費税の導入前後から、所得税や相続税はたびたび減税され、豊かな人たちに有利な仕組みになってきた。
 所得税は、収入が増えるに従って、税率が階段状に上がっていく。84年までは19段階あり、所得が8千万円を超えると75%の最高税率がかかっていた。89年には50%に下がり、97年に消費税率が3%から5%に上がる前にも減税された。いまでは6段階に減り、最高税率は1800万円超にかかる40%。所得が多い人と少ない人の税率の差は小さくなった。
 所得税は、豊かな人たちから集めたお金を、貧しい人のために使うという「所得の再分配」の機能を担ってきた。だが、09年度の経済財政白書によると、国民の所得格差の度合いを示すジニ係数が、税による再分配でどれくらい改善したかをみると、日本は0.003ポイント。欧米など主要21カ国のなかで「最も小さい」と指摘した。
 相続税も、88年に大きく見直され、税率をかける前に相続資産から差し引ける控除を大きくした。バブル期の地価上昇で、自宅を売らないと相続税を納められない人を救うのが目的だったが、地価が下がった後も多額の控除を認めたままにしたため、相続税を払っているのは相続件数全体の4%にすぎない。
 弱まりすぎた税の再分配機能を直そうと、今年度の税制改正では、所得税の控除に制限を設けたり、相続税の最高税率を上げたりして、高所得者や資産家の負担を増やそうとした。だが、野党の反対で結局、実現しなかった。
 野田首相は5日、所得税や相続税の「税率構造の見直し」を改めて指示。最高税率引き上げや所得課税の段階を増やすことを念頭においている。低所得者には減税と現金給付を組み合わせた「給付つき税額控除」の導入を検討。こうしたことで不公平感を薄め、消費増税の理解を得ようとしている。(吉川啓一郎、星野眞三雄)

 □消費税率が10%になったときの年収別の年間負担増

   世帯年収         負担増額
250万円未満       11万7565円
250万円〜300万円未満 11万1446円
 300万〜350万円   13万4046円
 350万〜400万円   11万8261円
 400万〜450万円   11万7274円
 450万〜500万円   12万5889円
 500万〜550万円   13万3214円
 550万〜600万円   14万 462円
 600万〜650万円   15万6559円
 650万〜700万円   16万6730円
 700万〜750万円   16万8436円
 750万〜800万円   16万4342円
 800万〜900万円   19万1844円
 900万〜1000万円  20万8960円
1000万〜1250万円  22万6387円
1250万〜1500万円  26万1541円
1500万円以上      25万7328円

2010年の家計調査をもとに第一生命経済研究所が試算。一方が働く夫婦と子ども2人の4人世帯の場合)


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(負担増を考える)減税恩恵、富裕層に偏り 所得税、延長続く優遇措置
 朝日新聞 
2011.12.22日 朝刊


 この30年近く、所得減税が繰り返され、お金持ちの税負担は軽くなった。一方で、消費増税は所得の少ない人の生活をますます厳しくする。税に「ゆがみ」が生じている。

 全国のスーパーと取引する食品メーカーの70代の創業者は、日本有数の個人投資家だ。株の配当金だけで年に数億円も入ってくる。
 事業で稼いだお金を元手に、株式投資を始めて50年あまり。企業情報が詰まった「会社四季報」をめくりながら、スマートフォンを使って証券会社に売買を発注。大株主として名を連ねる上場企業も少なくない。
 株の配当金や売却益など稼ぎが大きいだけに毎年支払う税金も億円単位。だが、小泉政権下の2003年に始まった「証券優遇税制」のおかげで、いままで税金の支払いを計10億円近く少なく済ますことができた。
 証券優遇税制は、個人のお金を株式市場に呼び込んで、取引を活性化しようと導入。上場株式の売却益や配当などにかかる所得税や住民税の税率は、本来の20%から10%に引き下げられた。当初は「5年限定」のはずだったが、金融危機による株価低迷などで延長が繰り返され、いまも続く。
 創業者は「税金をもっと払えと言われれば払う。でも投資は雇用を生み出す源泉だし利回りが悪くなれば投資家は離れる。財政は大事だが、金の卵を産む鶏を殺しちゃいけない」と話す。

再分配機能せず
 所得税は、所得が増えるほど段階的に税率が高くなる。豊かな人から税金を集め、貧しい人のために使う「所得の再分配」の機能を担ってきた。ところが、実際の所得のうち、どれだけ所得税を払っているかの割合(負担率)をみると、所得が1億円を超えると、負担率が低くなるという現象が起きている=グラフ。
 株の配当金や売却益にかかる税金は、階段状に増えていく税率ではなく、一律10%のため、所得に占める金融資産からの収入の割合が高い富裕層ほど、負担が軽くなるというしくみだ。
 所得税の階段自体も、豊かな人に有利に見直されてきた。1980年代前半は19段階に分かれ、所得が8千万円を超えると最高税率75%がかかっていたが、いまは、1800万円超にかかる40%が最高税率。お金持ちの消費を促そうというねらいだったが、所得が多い人と少ない人との税率の差は格段に小さくなった。
 
政権は方針転換
 野田佳彦首相は、所得の少ない人ほど負担感が強くなる消費増税への理解を得るには、富裕層にも応分の負担を求める必要があるとして、最高税率の引き上げなどを指示。13年末までの証券優遇税制も「さらに延長はしない」と明言した。
 ただ、富裕層増税がうまくいくかどうかは分からない。株式などに回るお金は「逃げ足」が速く、増税されれば、海外に出ていってしまう恐れがあるからだ。
 会員制の富裕層向けサービス「クラブ・コンシェルジュ」(東京、宮山直之社長)は、料亭での食事会や有名すし職人の自宅派遣などを企画。年会費は最高で100万円超だが、創業9年で会員6千人に達した。
 会員の医療法人経営者は年収6千万円。都心に3軒の自宅を持ち、休日は14人乗りの自家用クルーザーで海に繰り出す。「人並み以上に長年努力してきた。高所得者をねらった増税は働く意欲を失わせる」
 富裕層が税金の安い香港やシンガポールに移る「資本逃避」が、「現実になりつつある」と宮山社長。最近、香港への事業移転を手伝うサービスをメニューに加えた。(福山崇、吉川啓一郎)