【少年非行7
 石巻少年死刑判決
 年齢も生い立ちも考慮しない?  2010.12.3






石巻少年死刑判決 20101125

 裁判員裁判ではじめて少年に対する死刑が求刑された宮城県石巻の事件で、仙台地方裁判所は死刑判決を下した(20101125日)。新聞報道①はその事件に関する読売新聞の社説。この社説自体は抑制のきいた文である。気になったのは、18歳という被告の年齢は「死刑を回避する決定的な事情とはいえない」という判決文と、その後に書かれている最高裁判所の調査結果である。

 新聞報道によれば、判決のこの一文は、1999年に起きた山口県光市の母子殺害事件に対する最高裁の判決(2006年)を踏襲したものとされる。光市のこの事件は、広島高等裁判所に差し戻されて、2008年に死刑判決が確定した。読売新聞の社説が言うように、山口県光市の母子殺害事件と同様、今回の石巻事件にも「厳罰化」の流れを読み取ることができる。


成人と同等以上の刑を!?

 死刑判決の背景には、厳罰を求める世論がある。読売の社説はそうした世論を表すものとして、最高裁司法研修所の調査結果を紹介している。新聞報道②は、この調査を報じたものである(2006315日)。同日の読売新聞によれば、前田雅英首都大学東京教授と現役の刑事裁判官が中心となり、200589月にアンケート形式で行った調査だという。調査結果を見てみたいと思って探したが、ネットではこれ以上のことはわからなかった(新聞はなぜ調査名を書かないのだろう)。

 それにしても、である。少年に対する刑について、成人より軽くするという回答は4分の1に過ぎず、約半数が成人より重くも軽くもしないとし、残りの4分の1は、むしろ重くすると答えたという。
 今更ではあるが、衝撃的な調査結果だと思う。石巻の事件を担当したある裁判員は、「命奪うのは大人と同じ刑に」と述べたとされるが(朝日新聞、1125日)、それどころではない。大人以上に刑を重くするという回答が4分の1もあるというのは、一体どういうことなのだろう。なぜ、少年に対して大人以上の刑罰を科そうと思うのだろうか。少年に対する敵意や憎悪が広がっているように思える。


少年の境遇が報道されない

 今回の石巻事件の報道を通じて思うのは、少年の境遇や成育過程についての報道があまりに少ないことである。朝日新聞がまとまったかたちで少年の成育関係について報じたのは、判決の出た日が最初だったと思う(新聞報道③)。

 1997年の酒鬼薔薇事件では、少年の家族関係や成育過程が事細かに報じられた。それが今回は少ない。なぜなのだろうか。プライバシーの問題、少年の年齢などが考慮されたのかもしれない。あるいは、酒鬼薔薇事件の場合は「普通」の家庭環境にあったのに対し、今回の少年は「不幸」な境遇にあったからなのか。
 うがった見方かもしれないが、「普通の(家庭の)子」の場合には、家庭内の問題が詳しく報道される。それに対し、「不幸」な境遇の場合にはそれほど報道されないように思う。「普通の(家庭の)子がなぜ?」「普通の子が危ない」といった、昨今の社会の関心からはずれるからかもしれない。


母親の監督も期待できない!?

 「普通」の家庭の少年には関心を持っても、「不幸」な少年の境遇にはそれほど関心が向けられない。とすれば不可解なことだ。少年事件では、「不幸」な境遇が重視されるべきはずなのに。
 「普通」の家庭で育った少年の場合には、家庭のあり方に世の人々の関心が集中し、育て方が悪かったと親の責任を問い、親をバッシングする。少年が「不幸」な家庭環境で育った場合には、その境遇や家庭環境は無視し、少年に自ら行なったことの全責任を負わせる。少年事件に対する今の見方は、そうしたものになっているように思う。

 このことは判決にも表れているのではないか。光市の事件の死刑判決は、次のように言う。「被告が父親から暴力を受け、母親が自殺するなど、家庭環境によって精神的に未熟だったことが事件の背景にあるとしても、事件の動機や悪質さを考えると、死刑を避ける特別な事情とは言えない」。
 毎日新聞(新聞報道④)によれば、今回の石巻の判決も、「不安定な家庭環境や母から暴力を受けるなどしたという生い立ちも、量刑上考慮するのは相当でない」と判断した。光市の判決はまだ「死刑を避ける特別な事情」に限定されていたのに対し、今回はそもそも「生い立ち」は「量刑」の考慮に値しないと、さらに踏み込んだ判断を示したように読める。
 それどころか、同判決は「実母が少年の人間性のゆがみを正確に認識しているか疑問がある上、従前の監督状況などをかんがみると、実母による指導、監督は期待できない。少年の更生可能性は著しく低いと評価せざるを得ない」と言う。判決を確認する必要があるが、母が少年を指導・監督することができないから、少年には更生可能性がないと言わんばかりである。

 つまり、石巻の「不幸」な少年の境遇は量刑上の考慮に入れられないだけでなく、母親の指導力の欠如が、少年の更生可能性を否定する根拠となっているのである。「不幸」な家庭で育った少年は、母親の分まで罪を負わされるかのようだ。だが、少年の更生可能性は、母親の指導力如何の問題ではないだろう。更生可能性を引き出し、矯正するのは、少年院や少年刑務所の責務ではないのか。


裁判員裁判と少年事件

 今回、ネットで石巻事件の裁判に関する報道を読んでいて実感したのは、新聞記事の主な関心が裁判員の心境や言動に向かっていることだ。それは仕方のないことかもしれない。だが、その結果、判決の内容自体についての報道が非常に薄く、少なくなってしまったように思える。
 そうした中、「河北BIZナビ」(20101126日)は、今回の判決を導き出した裁判員制度のあり方について次のように書いている。

少年の更生可能性を探るために家裁が調査、作成した「少年調査票」(社会記録)の調べは、(今回の裁判員裁判では:広井)結論部分を読み上げたにすぎない。裁判員制度以前は、裁判官が膨大な社会記録の全資料に目を通したとされ、証拠調べで(裁判員裁判以前の裁判との間に:広井)大きな差が出た。 
http://www.kahoku.co.jp/news/2010/11/20101126t13017.htm

 毎日新聞も、裁判員裁判では、家庭裁判所や鑑別所が調べた少年の成育歴や家庭の事情などに関する「社会記録」は、一部分しか提出されなくなったと報じている(新聞報道③)。少年の不幸な境遇に対する関心の衰退は、厳罰化を求める世論だけでなく、裁判員制度自体にもその要因があるように思える。


厳罰化の行き着くところ

 これまでの少年事件では、少年の①年齢、②成育環境・境遇、③更生の可能性、④改悛・反省の度合いなどが考慮されて、判決が下されてきた。だが、今回の判決は、①の年齢も、②の成育環境・境遇も量刑の判断基準からほとんどはずされてしまった。
 その結果、③更生の可能性も、④改悛・反省の度合いも、否定的にしか評価されなかった。代わりに重視されているのが、「罪刑均衡」「一般予防」である。
 ①②を軽視し、「罪刑均衡」と「一般予防」を重視すると宣言したのが、光市の事件と今回の石巻事件に対する判決と言えるのかもしれない。

 厳罰化を求める世論は、今回の判決を望ましいものとして受け止めるのかもしれない。だが、私には少年に対するこうした不寛容さや敵意・憎悪が広がることが空恐ろしい。この先に行き着くものが何なのかを考えなくてはならないと思う。



【新聞報道】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新聞報道① 少年に死刑判決 更生より厳罰選んだ裁判員(読売社説)
読売新聞 20101126日 0152

 「犯行の残虐さ、被害の重大性からすれば、極刑をもって臨むほかはない」。2人を殺害し、1人に重傷を負わせた少年に対し、仙台地裁は死刑を言い渡した。
 裁判員裁判で、少年に死刑判決が出たのは初めてである。近年の少年犯罪への厳罰化の流れに沿ったものと言える。今後の裁判員裁判にも影響が及ぶだろう。
 少年は犯行を認め、裁判では量刑が焦点になった。少年に更生の可能性を見いだし、死刑を回避するか、犯行の残虐性を重視して、極刑にするか。
 判決は、犯行の様子について「執拗かつ冷酷で、残忍さが際立っている」と厳しく指摘した。
 一方で、少年が語る反省の言葉などについては「表面的」「深みがない」と判断。「更生の可能性は著しく低い」と断じ、極刑を回避する理由は見当たらない、という結論に至った。
 今年2月に宮城県石巻市で起きた事件だ。犯行当時18歳7か月だった少年は、交際相手だった女性を連れ出そうと自宅に乗り込み、それを邪魔したとして、女性の姉と友人を牛刀で刺殺した。姉の男友達にも重傷を負わせた。
 少年は母親への傷害事件を起こし、保護観察中だった。
 少年の健全育成・保護が基本理念の少年法は2000年に改正された。」16歳以上の少年が故意に人を死亡させた事件は原則として刑事裁判にかけるようになった。少年の凶悪事件が相次ぎ、厳罰を求める声が高まったためだ。
 山口県光市の母子殺害事件の裁判は、厳罰化を象徴する変遷をたどっている。犯行時18歳だった少年を広島高裁は無期懲役としたが、最高裁が破棄、高裁は差し戻し審で死刑を言い渡した。
 今回の判決は、被告の年齢について、「死刑を回避する決定的な事情とはいえない」と指摘した。母子殺害事件での最高裁の考え方が反映されている。
 最高裁が06年にまとめた調査では、被告が少年の場合、9割以上の裁判官が刑を「軽くする」と回答した。これに対し、一般市民の半数は「重くも軽くもしない」と答え、「軽くする」と答えた市民は4分の1にとどまった。
 少年犯罪に対する市民の厳しい見方の表れだろう。
 判決後、記者会見した裁判員からは「重圧で押しつぶされそう」「最後まで精神的なケアをしてほしい」との声が聞かれた。
 重い判決の度に、裁判所に突きつけられる課題である。


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新聞報道② 少年による殺人 市民25%が「成人より重い刑に」
 産経新聞 20060315 17:49

 殺人事件の被告が少年だった場合、市民の4人に1人が「成人よりも刑を重くするべきだ」と考えている。最高裁の司法研修所は15日、市民と裁判官を対象に実施した量刑意識に関するアンケート結果を発表、判断のポイントによっては両者に大きな隔たりがあることが明らかになった。
 調査は2009年春までに導入される裁判員制度に向け、量刑の「市民感覚」を探るため実施。全国8都市の市民1000人と刑事裁判官766人が対象となった。

 殺人事件を素材とし、39の量刑ポイントについて意見を聞いたところ、多くは傾向が一致したが、はっきり分かれたのは少年事件。裁判官は「成人より刑を軽くする」が90%を超え「重く」はゼロだったが、市民は約半数が「どちらでもない」を、25.4%もの人が「重く」を選択した。将来の更生のため刑を軽くするなどの配慮がある少年法を前提とした「裁判官の常識」が通用しないことが浮き彫りになった。
 最高裁刑事局は「少年の厳罰化を求める世論が強いことと関係があるのかどうかは、もう少し分析が必要」としている。(略)

 このほか、犯行時に飲酒していたケースについて、市民の17.9%が「刑を重くすべきだ」と考えるのに対し、そう考える裁判官は0.8%。逆に裁判官は、判断力の低下を刑の軽減理由と考えるためか、32.1%が「軽くすべきだ」としている(市民は6.1%)。
 被害者が配偶者だった場合「重く」する人は裁判官6.4%に対し市民が36.5%。「親族の殺人」に向ける市民の目が厳しいことが分かった。
 量刑の判断は、各地で実施中の裁判員模擬裁判でも難しさを指摘されている。今回アンケートに答えた市民の82.7%は「参考に類似事件の判決例が必要」と回答しており、最高裁は今後、実際の裁判員裁判でどのような資料を提供していくかを検討する。


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新聞報道④被告の少年、孤独な日常・母からの暴力 宮城の3人殺傷・死刑判決
 朝日新聞 20101125

 法廷での証言などによると、少年は5歳の時に両親が離婚、母に引きとられた。母は再婚、義父と妹との4人暮らしを始めた。だが一人だけ家に置いてきぼりにされることもあり「僕のこと嫌いなのかと思った」。母は飲食店で働いており、寝姿を登校前に見るだけで「寂しかった」。
 母には、機嫌が悪いとたたかれた。印象に残っているのは小2の時に受けた仕打ち。悪さをして学校に呼ばれると、「恥かかせやがって」と拳で何度も顔を殴られた。
 義父と別れた母は新たな交際相手に暴力を振るわれてアルコールに頼るようになり、入退院を繰り返す。少年は詳しく聞かされないまま小5で祖母に預けられた。
 自ら暴力を振るうようになったのは、県立高校に入学した2007年ごろ。「暴力を振るうとスッキリする」と友人に言われたのがきっかけだった。母や祖母にも、ためらわなかった。校内で暴力ざたを起こし、高校を中退した。
 086月ごろ、元交際相手の少女と知り合った。「可愛いな。あと可哀想だな、って」。少女も父親を亡くしていた。家族から疎んじられている――。少女からそう聞き、自身に重ね合わせた。だが、交際を始めてから23週間後、少年は少女に暴力を振るうようになった。
 弁護側は、こうした生い立ちの不遇さが犯行の遠因だとして、有利に考慮すべきだと主張したが、判決は「犯行態様の残虐さや結果の重大性に照らせば、量刑上考慮するのは相当ではない」と退けた。

 ◆成育歴・家庭の検討十分か
 元裁判官で、多くの少年事件に携わった広瀬健二・立教大法科大学院教授の話
 結果が重大なので、死刑でもやむを得ないとは思う。ただ、判決からは少年の成育歴や家庭環境への検討があまり感じられない。重大犯罪であるほど時間をかけて少年の内面に迫ろうとした従来の裁判と比べ、短期間の集中審理でどこまで少年法の趣旨や更生可能性について裁判員が理解できたか疑問も残る。審理期間が少し延びたとしても、臨床心理の専門家などから直接意見を聞くなどした方が裁判員もより納得して判断できるのではないか。プライバシーの問題があれば公開を一部制限する仕組みも検討すべきだ。

残虐な犯行、重視した結果
 少年犯罪被害当事者の会代表を務める武るり子さんの話
 裁判員裁判だと、幼い少年を目の当たりにした裁判員が、適切な判決を出せないのではと心配してきた。それでも死刑判決が出たということは裁判員が残虐な犯行を重視した結果だろう。年齢の前に「まず何をやったのかを見てください」と訴えてきた。今回の判決は、厳罰化ではなく、刑の適正化だと考える。遺族でも「死刑」を求めるのは重いことだ。だが、刑事裁判に問える年齢なら、人を殺してはいけないということは分かるはず。少年でも受けるべき罰を受けるということを、社会に示すべきだ。


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新聞報道④ 宮城・石巻の3人殺傷:少年に死刑判決(その2止)「反省に深みない」 
 毎日新聞 20101126日 東京朝刊

 少年事件の裁判では、20歳未満の犯罪に対する手続きを定めた少年法が立ち直りを最大の理念としているため更生可能性の評価が成人より重視される。
 警察や検察は容疑者が少年の場合、まず家裁に送致する。家裁は非公開で処分を決めるが、その重要資料として家裁調査官や収容先の少年鑑別所が成育歴や家庭の事情、調査を踏まえた意見を記した「社会記録」を作る。内容は、少年の問題点と立ち直りへの道筋を示したものとなる。
 16歳以上が故意に人を死なせた場合は原則として検察に逆送されるが、刑事裁判でも社会記録は改めて証拠とされ、従来の裁判官だけの裁判では重要な資料の一つとされた。
 裁判員裁判でも証拠とされるが、一般市民が多くの書面を見ることはできず提出されるのは一部となる。今回の仙台地裁の裁判では、家裁調査官の「児童期に家庭が崩壊し思いやりが育っていない」との意見と、鑑別所の「裁判で罪の意識を自覚させることが重要で、矯正は相当な時間を要する」との所見が出された。
 家庭環境が事件の一因と指摘し少年の未熟さを示したとも言えるが、判決は更生可能性を示すものと評価しなかった。それよりも法廷での少年の態度や発言を重視し、逆に「反省には深みがなく母親の監督も期待できない」と結論づけた。
 少年事件に詳しい弁護士は「社会記録は全文を読んでもらうべきで、一部だと誤った判断につながる恐れがある」と話し、少年の弁護側は「裁判員裁判で更生可能性を判断するのは限界がある」と語った。今回の裁判は、少年事件の審理の在り方について議論を呼ぶ可能性がある。

判決要旨
「母の監督、期待できぬ」
 判決の要旨は次の通り。

 <量刑判断の枠組み>
 2人に対する殺人、1人に対する殺人未遂を含む重大事案で、保護処分の余地はない。死刑と無期懲役のいずれを選択すべきかが問われており、永山基準に従って考察する。

 <犯行の態様>
 自分の欲しいもの(元交際相手)を手に入れるために人の生命を奪うという強盗殺人に類似した側面を有する重大な事案だ。
 元交際相手の姉の肩をつかみ、牛刀を腹部に思い切り突き刺した上、2、3回前後に動かして殺害した。元交際相手の友人が「お願い、許して」と命ごいするのを無視し、「オメエもだ」と言いながら3、4回も突き刺して殺した。無抵抗の被害者をためらうことなく次々と殺傷した犯行態様は極めて執拗(しつよう)かつ冷酷で、残忍さが際立つ。
 元交際相手の連れ出しを邪魔した者は殺害する意図のもとに凶器を準備し、共犯者を身代わりに仕立てようとするなど周到な計画を立てている。

 <被害結果>
 2人の尊い生命が失われ、さらに1人の生命も失われる危険性が高かった。その無念さや苦痛は察するに余りあり、極刑を望む遺族らの処罰感情も、被害結果の重大さ、深刻さの表れとして量刑上考慮するのが相当だ。

 <動機>
 少年は、元交際相手を手元に置きたいという身勝手な思いから、犯行前日に無理やり連れ出そうとしたが、姉らに警察へ通報されるなどして制止された。少年は保護観察中で、警察に通報されると少年院送致になると思っていたことからもこれに激怒し、邪魔する者を殺そうと考えた。動機は極めて身勝手で自己中心的だ。

 <社会的影響>
 3人を殺傷した上、1人を拉致して逃走し、近隣住民に多大な不安を与えたことも、量刑上看過できない。

 <更生可能性>
 少年は元交際相手への暴行をエスカレートさせ、警察から警告を受けても態度を改めることなく、本件犯行に及んでおり、犯罪性向は根深い。
 ちゅうちょせず残虐な殺傷行為に及んだ▽保身のため共犯者に凶器を準備させた揚げ句、身代わりとなるよう命じた▽犯行後、元交際相手に姉らが死亡した内容のニュースを見せ「何で泣いてんの」と言った−−などの言動からすれば、少年には他人の痛みや苦しみに対する共感が全く欠け、その異常性やゆがんだ人間性は顕著だ。
 少年は公判で涙を流すなどして犯行を後悔し、極刑をも覚悟して自らを厳罰に処してほしいと述べるなど、一応の反省はしている。しかし、被害者遺族の精神的苦痛を和らげるに足る謝罪はなく、反省の言葉は表面的だ。自己に不利益な点は覚えていないと述べるなど不合理な弁解をし、本件の重大性を十分に認識しているとは到底いえず、反省には深みがない。
 また、実母が少年の人間性のゆがみを正確に認識しているか疑問がある上、従前の監督状況などをかんがみると、実母による指導、監督は期待できない。少年の更生可能性は著しく低いと評価せざるを得ない。

 <事件時の年齢>
 当時18歳7カ月だったことは相応の考慮を払うべき事情だが、犯行態様の残虐さや結果の重大性にかんがみると死刑を回避すべき決定的な事情とまではいえず、ことさら重視できない。不安定な家庭環境や母から暴力を受けるなどしたという生い立ちも、量刑上考慮するのは相当でない。

 <結論>
 以上の事情、特に犯行態様の残虐さや被害結果の重大性からすれば、少年の罪責は誠に重大だ。少年なりの反省などを最大限考慮しても、極刑を回避すべき事情があるとは評価できない。罪刑均衡や一般予防の見地からも、極刑をもって臨むほかない。

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最近の主な少年事件の刑事裁判◇      
     
1〉アベック殺人事件(88年、名古屋市) 年齢:19歳 死者:2人 1審:判決死刑 
    現在:2審で無期確定
2〉一家4人殺害事件(92年、千葉県) 19歳 4人 死刑 上告審で死刑確定
3〉連続リンチ殺人事件(94年、愛知など3府県)19歳 4人 死刑 2審で全員死刑
    19歳 無期 上告中   18歳 無期
4〉光市母子殺害事件(99年、山口県) 18歳 2人 無期 差し戻し2審で死刑、上告中
5〉夫婦殺傷事件など(02年、大分県) 19歳 2人 無期 上告審で無期確定
6〉市立小教職員殺傷(05年、大阪府) 17歳 1人 12年 2審で懲役15年確定
7〉母親ら3人殺害(08年、青森県) 18歳 3人 無期 控訴審継続中
  <09年5月 裁判員制度スタート>
8〉高1殺害(09年、大阪府) 18歳 1人 殺人罪で起訴
9〉同級生刺殺(09年、奈良県) 17歳 1人 5-10年の不定期刑
10〉石巻3人殺傷(10年、宮城県) 18歳 2人 死刑
 「年齢」は事件時の少年の年齢、〈6〉〜〈9〉以外は死刑求刑