【児童虐待6】
 虐待相談と養護施設の児童数
 捨て子の数は減少している  2011.12.5





児童養護施設に入所した児童の数はあまり変わらない
 
 厚労省はほぼ5年おきに、児童養護施設に入所した児童について実態調査を行なっています(「児童養護施設入所児童等調査」*)。このデータをもとに、養護施設と乳児院に入所した児童および里親に委託された児童について見てみましょう。
 資料1は、
1983年から2008年までの児童数の推移です。この資料1からわかることは、養護施設と乳児院の児童数および里親に委託された児童数の合計は、この25年間、それほど変化していないということです。これらの児童数は、1983年は38615人ですが、1998年は31874人と、6741人減少しています。その後増加に転じ、2008年は98年から6629人増えて38503人。83年とほとんど同様の人数に戻りました。
 児童相談所への虐待相談の大幅な増加からすると、これらの施設や里親が保護する児童が大幅に増えているように思えるのですが、実はそうではないのです。

【資料1】

虐待6-1
*近年の調査については、以下を参照。
養護施設入所児童等調査結果の要点及び概要(平成1021日現在)
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb16GS70.nsf/vAdmPBigcategory60/49256FE9001ADF92492569E70031E0C2?OpenDocument
児童養護施設入所児童等調査結果の概要 (平成1521日現在)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/07/h0722-2.html
児童養護施設入所児童等調査結果の概要 (平成202月1日1現在)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jidouyougo/19/index.html


虐待による入所・委託児童数は増加している

 資料2は、虐待にかかわると思われる入所・委託理由を取り出してまとめたもです。92年調査から、分類項目が変更になり、虐待に係わる項目として「養育拒否」が加わりました。また、「破産等の経済的理由」という項目も設けられたので、この数値も載せてあります。
 前述のように、今日の入所児童数は80年代とほとんど変わらないのですが、
2003年以降の増加は、虐待に関する相談対応件数の増加がかなり反映しているものと思われます。資料2にあるように、虐待にかかわる入所・委託理由(「虐待・酷使」および「放任・怠惰」)が、98年から大幅に増加しているからです*。
 2008年に「虐待・酷使」と「放任・怠惰」で保護された児童は1106人。これに92年に設けられた「養育拒否」を合わせると、2008年の虐待関係の児童は12319人で、入所・委託児童の32%を占めます。83年は、「虐待・酷使」と「放任・怠惰」の合計は2908人で、入所・委託児童の7.5%でした。98年以降、虐待による入所・委託児童数が大幅に増えたことが分かります。

 以上のように、98年以降、虐待を理由とした入所・委託児童数が大幅に増えました。とすると、虐待以外の原因はかなり減少したことになります。ですが、果たしてそうなのでしょうか。
 これらの分類は入所・委託に至った主な理由として認定されたものであって、他の項目に分類された児童は、虐待を受けていないということではありません。そのため、厚労省の同調査は、全入所・委託児童に対して、虐待を受けた経験があるかどうか調べています。2008年の調査によると、養護施設児は53.4%、乳児院児は32.3%、里親委託児では31.5%が虐待(うち約7割がネグレクト)を受けたことがあるとされます。

 ということは、逆に、虐待と分類された児童にも、それ以外の養護問題がありうるということになります。つまり、何が言いたいのかというと、この入所・委託理由の分類には、分類する側の「まなざし」が、かなり反映しているのではないか、ということです。
 入所する児童は様々な問題をかかえています。虐待だけ、というケースはそれほどないのではないかと思います。そうした子どもの入所理由をどう捉え、どのように分類するか。その分類の際に、児童虐待を最も重要視するようになった時代のまなざしが、多少なりとも反映しているように思えてなりません。


【資料2】
虐待6-2
*入所・委託理由(養護問題発生理由)としては、他に親の死亡、行方不明、離婚、未婚、不和、拘禁、入院、出産、就労などの項目があります。


棄児(捨て子)の収容人員は大幅に減少している

 そのように考えると、気になるのが「棄児」(捨て子)です。現在、厚労省は棄児を虐待の一種として捉えていますが、棄児は虐待の中では、おそらく時代のまなざしの影響をそれほど受けないのではないかと思います。また、児童の死亡(殺人)とともに、最も「暗数」の少ないものでもあるでしょう。現在の社会では、棄児が行政機関に把握されないまま養育あるいは放置されることは、ほとんどないと思われるからです。

 先の調査によると(資料2)、棄児の数は、83673人、87771人だったのが、98年、03年と減り、2008年は350人へと半減しました。養護施設、乳児院、里子委託、いずれも減少しています。養護施設は1983330人から2008166人へ。同じく乳児院96人から50人へ。里親委託247人から134人へ。1987年は83年より増えるのですが、90年代以降、一貫して減少します。

 では1980年代以前はどうだったのでしょうか。厚生省の先の調査は、1983年までは基本的に抽出調査でした。そのため、全児童に占める棄児の構成比しか分かりません。
 それで何か棄児に関する研究はないのかと調べていたら、ありました。画期的な研究が。川﨑二三彦さんが、『子どもの虹情報研修センター紀要』6号(2008年)に書かれた「センター図書室で棄児を追う」というエッセイです。
 この研究が画期的なのは、戦前、戦後のデータの所在と数値がわかることです。戦前の棄児については、これまで主に「棄児養育米」(養育棄児)に関するデータが紹介されてきました(沢山美果子『江戸の捨て子たち』吉川弘文館、2008年など)。ですが、他に警察のデータもあったのですね。

 戦前のデータも興味深いのですが、ここには戦後の棄児に関するグラフ(資料53)を転記します。これは厚生省「社会福祉行政業務報告」などをもとに、児童相談所が1年間に取り扱った棄児処理件数をグラフ化したものです。そのため、児童養護施設等に在籍している児童数を表す先のデータとは数値が異なります。
 資料5をみると、1950年代はやはり棄児の数が多かったことが分かります。年間500800件ほどでした。その後、1970年代初頭を除き、300件前後で推移。1994年以降、再び減少して200件程度になります。棄児の数は高度経済成長期に減少し、90年代以降さらに減少したのです。


【資料3】戦後における児童相談所等の棄児取扱・処理件数
Pasted Graphic 2

川﨑二三彦「センター図書室で棄児を追う」『子どもの虹情報研修センター紀要』62008年、140頁。
http://www.crc-japan.net/contents/guidance/research.html


棄児の減少をどう捉えるか?

 以上、児童相談所への虐待相談件数と児童養護施設等の児童数の変遷について見てきました。1990年代以降、相談係数は膨大に増えましたが、施設への入所児童数は相談件数の増加に対応して増えたわけではありませんでした。1980年代の入所・委託児童数は、今日とほとんど変わりません。
 相談件数と入所・委託児童の増加率がこのように大きく異なるのは、おそらく近隣・知人などからの相談件数が増加し、虐待ではないと認定されるケースや、虐待とまでは言えないが虐待が「危惧」されるケース、そして比較的「軽度」の虐待についての通報が増えたからです。

 とはいえ、確かに、虐待による入所・委託児童は増えました。2008年に虐待で保護された児童は、養護施設児と乳児院児、里子の3割を占めています。
 しかし、その一方で、棄児(捨て子)として保護される児童は減少しました。80年代と比べると、近年はその半分です。入所・委託児童数を見る限り、捨て子は大幅に減少していると考えられます。

 今日では捨て子も虐待の一種として捉えられています。虐待やネグレクトが急増しているとすれば、ネグレクトの最たるものとも言える捨て子も増加するはずではないでしょうか。それがなぜ減少しているのか。
 川﨑さんは先のエッセイで、棄児の数の減少については、何もコメントや解釈を加えませんでした。ですが、川﨑さんも虐待は「急増」していると捉えているようです*。だとすれば、捨て子の減少はどのように説明できるのでしょうか。

*「どうする? 子ども虐待 京都産業大学法政策学科開設記念シンポジウム パートII記録」京都産業大学『産大法学』 432号、2009.9月。
http://ci.nii.ac.jp/els/110007318326.pdf?id=ART0009169818&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1323411526&cp=