■女性の労働について考える

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【女性の労働】
 女性の職場支出? 働き続ける女性は増えているか 2007. 3.15



 1985年に男女雇用機会均等法、1991年に育児休業法が制定され、女性の職場進出が進んでいると言いわれている。その結果、少子化が進んだとか、親子の会話が減ったなどとも言われている。
 確かに、女性の労働力率は上がっている。だけれども、出産・育児期にも仕事を辞めずに、働き続ける女性は増えているとはどうも思えない。『男女共同参画白書』と国立社会保障・人口問題研究所の調査をもとに見てみよう。

 2006(平成18)年版男女共同参画白書
 http://www.gender.go.jp/whitepaper/h18/web/danjyo/html/honpen/index.html
 国立社会保障・人口問題研究所 http://www.ipss.go.jp/


女性の労働力率は上がっている

 総務省統計局の「労働力調査」によると、
2005年の労働力率(1564歳)は、60.4%である。1975年の49.7%と比べると、女性の労働力率は大幅に上昇している。
 女性の年齢別労働力率を見ても、大学進学率が上がった20代はじめを除いて、ほぼどの年代で労働力率が上昇している。とくに、20代後半から30代前半の伸び率が大きい。このことは、出産・育児期も仕事を辞めずに働き続ける女性が増えていることを表しているようにも見えるのだが

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女性の勤続年数が延びている

 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(
2005年)によると,雇用者の女性の平均勤続年数は8.7年。1985(昭和60年)の6.8年より、2年ほど延びている。男性は13.4年(1985年、11.9年)。

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共働き世帯が増え

 共働き世帯も増えた。
1997(平成9)年以降は、共働きの世帯数が、男性雇用者と無業の妻からなる片働き世帯数を上回るようになった。

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子どもができても働き続けた方がいいという意見が多数派になった

 世論調査では、以前は、女性は子どもができたら職業をやめ、子どもが大きくなったら再就職する方がいいという意見が、男女とも多数派だった。

 それが、2002(平成14)年の調査では、女性が育児期も働き続けることを支持する男性が多数派になり、女性も、2004(平成16)年の調査で、仕事継続派が再就職派を上回った。男性の方が早く逆転したのが面白いが、仕事の継続派は、男性38.6%、女性41.9%と、女性の方が高い。

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だが、出産後も働き続けている女性は4人に1

 このように見てくると、当然、女性は子どもができても働き続けるようになったかのように思える。しかし、である。

 2001(平成13)年1月および7月に出生した子について追跡調査した厚生労働省「第1回21世紀出生児縦断調査」(2001年度)では、子どもが1人の女性の場合、出産する1年前に有職だった人のうち、約7割が出産6か月後には無職となっている(『少子化社会白書』2006年版)。

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 厚生労働省「出生前後の就業変化に関する統計(人口動態統計特殊報告)」(
2003年度)でも、第1子の出生1年前に働いていた母親のうち、子どもが生まれて1年半後まで仕事を続けていた割合は23%にすぎない。一時離職して出生1年半後までに再就職した人は13%いるが、6割は出産前後に仕事を辞めている。


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小さい子のいる女性の労働力率は上がっていない

 下の表は、妻が
25歳から49歳までの世帯で、子どもがいない世帯と、0歳から2歳の末子がいる世帯の妻の有業率を比べたもの。
 これによると、子どものいない世帯の妻の就業率は若干上がっているが、02歳の末子がいる母親の就業率は、ほとんど変化がない。1982(昭和57)年から2002(平成14)年までの20年間、小さい子どものいる母親の就業率は全くと言っていいほど上がっていないのである。これでは、男女雇用機会均等法(1985年)も、育児休業法(1991年)も、まるでなかったかのようだ。

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育児休業制度ができたのに、なぜ?

 育児休業制度ができたのに、そして、実際、育児休業をとる女性も増えたのに、なぜこうした結果になるのだろうか。この点については、国立社会保障・人口問題研究所の「第
13回出生動向基本調査」(2005年)がとても参考になる。
 下のグラフにあるように、正規雇用の妻が育児休業を取得する割合は、年々増加している。正規雇用の妻が出産後も仕事を継続する場合、8割近くが育児休業を取るようになった。

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 しかし、次のグラフを見ると、意外なことがわかる。育児休業の所得者は増えているが、就業を継続している妻の割合自体は、変化していないのである。
 国立社会保障・人口問題研究所はこの結果について、「育児休業制度を利用して就業を継続した妻は増加しているものの、就業継続者そのものは1980年代後半以降、25%前後で大きく変化はしていない」と書いている。
 育児休業制度によって、乳幼児を抱えて働き続ける女性の苦労は確かに軽減された。だが、少なくともこれまでのところ、育児休業制度が、出産退職を減らすことはなかったのである。それどころか、出産退職はわずかずつ増加している。

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仕事を辞める理由

 下の女性の「潜在的労働力率」は、女性の労働力率と就業希望率とを合わせたもの。仕事をしたいと希望している人を合わせると、M字型のくぼみはだいぶ上にあがる。
30代で就職希望率が高いことから、子育て期の就職希望者が少なくないことが分かる。 

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 日本労働研究機構が「出産1年前には雇用者で現在は無職」かつ「就学前の子どもがいる女性」を対象に行った調査(2003年)では、仕事をやめた理由として「家事、育児に専念するため、自発的にやめた」が最も多く、52%。前述のように、一般論としては、女性も仕事を継続した方がいいという意見が多数派になったが、育児に専念したいという女性は今も多い。
 他方、「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさでやめた」は24.2%。違法であるはずの、解雇や退職勧告は56%で、3割が不本意な退職である。


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 下のグラフは『少子化社会白書』(
2006年版)から、取ったものだが、同白書は、この結果について、「仕事と子育てを両立できる環境が整っていないことを示唆する回答も多い」と書いている。


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2030代女性の労働力率が上がったのは? 晩婚化の影響

 では、出産後も働き続ける女性の割合は増えていないのに、なぜ、
20代後半から30代の女性労働力率が増えているのか。
 考えられる要因の1つは、晩婚化である。下のグラフにあるように、未婚女性と既婚女性の労働力率の差はきわめて大きい。20代後半の女性の未婚率は、1975年は20.9%だったが、2000年は54.0%。30代前半は7.7%から26.6%へと上がった。未婚率の上昇が、この年代の女性の労働力率を上げた大きな要因であると思われる。
 国立社会保障人口問題研究所の調査(後述)では、結婚前就業していた妻のうち、結婚後5年未満で就業しているのは45.5%、専業主婦は53.9%である。つまり、半数以上が仕事を辞めている。晩産化も労働力率の上昇に関係しているだろうが、晩婚化の方が晩産化よりも、より直接的に影響を与えているのではないかと思う。


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増えたのはパートと派遣

 女性の労働力率上昇のもう1つの大きな要因は、パートと派遣の増加である。下のグラフから分かるように、正規採用の割合は年々減少している。

 年齢別の雇用形態を見ると、1992(平成4)年の統計までは、20代の女性はほとんどが正社員、中高年女性は20%が正社員、一旦離職した後の再就職はパートというパターンであった。
 ところが、2002(平成14)年では、20代前半の女性の正規雇用が減り、パート・アルバイトが大幅に増えている。とすれば、今後働き続ける女性が増えるという見込みは立てにくい。育児休業制度は一定の条件を満たせばパート・派遣でも取得できるように改定になったものの、実際にはなかなか取りにくいからである。


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再就職の多くはパート

 一旦離職して、育児が一段落したあと、再就職する場合の多くが、パートであるのは、下のグラフからも分かる。末子の年齢が上がるに従って、わずかに正社員の割合が増えていくが、その割合は
2002(平成14)年も1992(平成4)年もほとんど変わらない。パートの割合はむしろ増えている。


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子どものいる妻の正規雇用は増えていない

 下の国立社会保障・人口問題研究所の調査からも、同じことが言える。

 2002年の結果を見ると、結婚前就業していた妻のうち、結婚後5年未満で就業しているのは45.5%。うち、子を持ちながら就業しているのは18.6%、正規雇用に限ると11.0%である。
 子のいる正規雇用の妻について、1992年から2002年の数値を見ると、結婚後5年未満では911%、結婚591715%、結婚10142117%で、増えているとはとても言い難い。
 国立社会保障・人口問題研究所は、「結婚後59年で子どもをもつ就業者の割合が増加しており、子どもが比較的幼いうちから再就職する妻が増加傾向にある。ただし、正規雇用については上昇幅は小さく、増加の大半は非正規雇用とみられる」と書いている。


女性の職場進出?

 このように見てくると、女性の職場進出のイメージが、いかに現実とズレているかが分かる。女性が色々な分野に進出して、出産後も男性並に働いて、昇格して
、なんてことは、一部の女性には当てはまっても、大多数の女性の現実からはほど遠い。とくに、中高年の女性にとっては、女性の職場進出や共働き家庭の増加は、パートや派遣労働の増大を意味しているだけであって、正規雇用への道が開かれたわけではない。
 にもかかわらず、なぜキャリアウーマンが増えているといったイメージがまん延しているのだろう。おそらく、それは、晩婚化、未婚化、晩産化が生み出したイメージではないか。確かに、かつてのように、2324歳=結婚適齢期、2526歳=クリスマス・ケーキ=大安売り、などということはなくなって、学卒後、女性が会社で働く期間は延びた。しかし、出産・育児のために仕事を辞める女性の割合は、20年前とほとんど変わっていないのである。
 しかも、1990年代の「失われた10年」に社会に出ざるをえなかった、現在20代後半から30代前半の「ロスト・ジェネレーション」では、女性の非正規雇用率は高い。女性の職場進出というイメージは、多くの若い女性の現実とも、もはや大きくズレている。 

2002年、妻が25歳から49歳の世帯で、2歳までの末子がいる妻の有業率 29.7
200004年に第1子を出産した妻が就業を継続している割合 25.3
2002年、結婚5年未満の妻のうち、子どものいる正規雇用は11%、非正規雇用8
 結婚510年未満では、子どものいる正規雇用は15%、非正規雇用25