■親子関係について考える

DSCF4006

【核家族化】
 
核家族化によって「家庭の教育力」が低下した? 2006.4.8



 核家族というのは、とても不思議なしろものである。およそ、ほとんどの教育問題や青少年問題は核家族(化)のせいにされている。児童虐待も、青少年非行・犯罪も、育児不安も、不登校も。
朝日新聞で、ある刑法学者は 核家族化によって高齢者の犯罪が「増加」したとコメントしていた。
 しかし私は、核家族(化)と これらの問題との相関関係を具体的に分析した研究をあまり見たことはない。それが私には不思議でならない。
 アマゾンのサイトで、「核家族」というキーワードを入れて和書を検索すると、10件しかヒットしない。他方、児童虐待は903件、不登校459件、青少年犯罪236件、青少年非行153件である(2006.48)。
  教育関係の調査では、多くの場合、家族構成が質問項目にある。だが、それは調査対象の属性を調べるためであって、核家族と質問項目をクロスさせることはあまりない。 核家族は、もはや、まともに研究の対象とはされていないのではないかと思う。核家族化は、それくらい自明視されているということか。
 いくつか、核家族に関する研究・調査を見てみよう。

 本田由紀は1960年代に登場した「教育ママ」と核家族化との関係を調べている。高度成長期の核家族化によって孤立した母親が、子どもの学歴獲得競争にのめり込む現象として「教育ママ」が捉えられてきたからである。
 だが、本田は、核家族化と「教育ママ」の相関関係は少ないと指摘している(「『教育ママ』の存立事情」藤崎宏子編『シリーズ家族はいま‥‥親と子』ミネルヴァ書房2000年)。

 東京都の『児童虐待の実態』(2005年)は、2003年度に都内の11児童相談所で受理した2481件の虐待相談事例を分析している。それによると、相談件数は、2世代家族88.8%、3世代家族7.4%。3世代家族からの相談の割合は、都内の3世代家族比率11.9%より低くなっていると指摘している。
 だが、都内の6歳未満の親族のいる世帯の核家族比率は、91.3%、18歳未満は88.5%。 2世代家族からの相談の比率88.8%という数値は、これと比べて高いわけではない。

Pasted Graphic


 三徳和子らが行った岐阜県内の調査では、住居状況(持ち家か、一戸建てか、集合住宅か)、家族構成(核家族か、祖父母と同居か、4世代以上か、祖父母が近在か、遠方か)によって、虐待に関する母親の意識の差はなかったという(「子どもの虐待に関する母親の意識調査」2002年)。


 栗栖瑛子は、東京23区内発生した実子殺し(成人した子も含む)で、有罪が確定した事件(1950年〜1971年)を調べている。その加害者の家族形態別の分析で、栗栖は「核家族の世帯の占める割合が高い」と指摘している。
 栗栖の示したデータによると、1970年の東京都内の核家族率は88.4%、加害者の核家族率は71.1%。一方、配偶者と他の親族、および、配偶者以外の親族世帯の合計は、東京都の場合10.3%であるのに対し、加害者の家族は25.8%である。この数値からすると、むしろ、核家族の方が、実子殺しが発生する確立が少ないことになる(「子殺しの背景」中谷瑾子編『子殺し・親殺しの背景』有斐閣新書19825960頁)。
 もっとも、23区と都内の違い、年代、核家族率の内実(子どものいる家族の割合)などを考えると、この比較にはそれほど意味はないかもしれないが。

 とりあえず、筆者の知りえたデータをいくつか紹介した。別段、自分の見方にあった調査を意図的に取り挙げたつもりはない。手持ちの文献とインターネットでたまたま見つけたデータである、だが、どの調査を見ても、核家族だから虐待などの問題が起こるということを証明しうるものではない。
 もちろん、もっと調べれば、色んなデータが出てくるだろう。ここで言いたいのはそうした様々なデータを突き合わせた上で、はじめて核家族(化)と教育問題との相関関係や因果関係がわかるはずだということである。そうしたデータの突き合わせのないまま、核家族化によって「家庭の教育力が低下した」などと言われているのが、私には不思議でならない。