■少年非行について考える


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【少年非行1】
 身の回りの非行は減っているのに
  2006. 10




 内閣府「少年非行に関する世論調査」がとても面白い。これは2005(平成17)年1月に行われた世論調査で、全国20歳以上を対象としたもの(個別面接聴取)。何が面白かったかというと

①(Q1) 青少年による「重大な事件」が、実感として以前よりも増えていると思う人が93.1%にのぼる(「かなり増えている」と「ある程度」の合計)。この数値は、4年前の前回調査(2001 年)の92.4%とそれほど変わらないが、「かなり増えている」と感じている人は、前回の58.9%から66.1%に増加した。

②(Q2) 増えていると考えられているのは、「低年齢によるもの」「凶悪・粗暴化したもの」「突然キレて行うもの」の順で多い。ほとんどの項目で、前回調査より増えている。

③(Q4・図4) 実際に周囲で起こり、問題となっている非行行為は、喫煙、飲食、深夜徘徊、バイクや自転車などの乗り物盗、万引き、ひったくりなどである。これらの非行行為のほとんどは、前回調査より減少している。増えているのは、「強盗恐喝」のみ(1.3%増)。「ささいなことに腹を立てて暴力を振るう」「刃物などの持ち歩き」「刃物などを使った殺傷事件」など、②で増えているとイメージされている行為も、実際に周囲で問題になっていると答えている人の割合は減少している。

④(Q5・図6) 最近の少年の性格や資質で問題だと思う点は、「忍耐力がなく、我慢ができない」「感情をうまくコントロールできない(すぐキレル)」「自己中心的である」の順で多い。前回調査より問題だと答える人の割合が増えている。

 つまり、①ほとんどの人が少年による重大事件が増えていると思っており、②しかも、粗暴で凶悪な事件が増えていると考えている。だが、③身の回りで実際に起きて問題となっている非行行為は、全般的に前回よりも減少している。④にもかかわらず、今の少年はますます忍耐力がなく、キレやすく、自己中心的になっていると世の人々は考えている、ということである。
 何だか、おかしくないだろうか? ③からすると、 自分たちの身近な所では、青少年犯罪や非行が増えているわけではない。キレやすい子どもやナイフを持った子どもが増えているわけでもない。にもかかわらず、「凶悪化」「低年齢化」「キレやすい」など、マスメディアが描き出した少年のイメージが浸透している。しかも、メディアで大きく取り上げられたわずか数人の少年の「特質」が、「最近の少年の性格や資質」へと拡大解釈され、一般化されてしまう。

 内閣府の分析もどうもおかしい( ネット上には調査の「概要」しか載っていないので、とりあえず概要の記述についてだが)。特に、③(Q4・図4)の分析が。
 ③はこの調査では重要な項目のはずである。③が唯一実際の動向について尋ねる項目であり(あとは意識調査)、前回調査と比較 すれば、身の周りでどんな少年非行が増えていると考えられているのかが分かるからである。
 なのに、である。前回調査との比較では、「『いじめ』(19.5%→16.8%)を挙げた者の割合が低下している」としか書いていない。 他の項目も軒並み低下しているのに、なぜいじめだけなのか。いじめ(2.7%減)より、「ささいなことに腹を立てて暴力を振るう」(3.5%減)の方が減少しているし、「暴走行為」はもっと減少している(4.8%減)。「キレル」が問題になっているのだから、「 ささいなことに腹を立てて暴力を振るう」が減っているのは、重要だと思うのだが。
 ③は、つまり、内閣府にとっては、期待はずれだったのだろう。内閣府は前回調査より減っているなどとは予想していなかったのだと思う。結局、内閣府としては、①②④が確認できればよかったのである。①②④の結果は、「少年犯罪は増えている」「凶悪化している」「現在の少年はキレやすい」といったことの裏付けとして利用できるから。やはり、何だかおかしくないだろうか?



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少年非行等に関する世論調査 の概要
http://www8.cao.go.jp/survey/h16/h16-shounenhikou/index.html