【少年非行6
 少年による「凶悪犯罪」は増えたか  2009.3.27






 このページでは「凶悪犯」と「粗暴犯」について見てみよう。少年犯罪が凶悪化していると言われているが、凶悪な犯罪は増えているのだろうか。

凶悪犯は1950年代末から60年代前半が最も多い

 警察庁は殺人、強盗、放火、強姦の4つを「凶悪犯」として分類している。資料1はその検挙人員、資料2は少年人口比、資料3は大人を含めた総検挙人員に占める少年の割合である。


 資料1と2はほぼ同じ軌跡をたどっている。凶悪犯全体で見ると、50年代末から60年代前半がきわめて多い。検挙人員が最も多いのは1958年〜66年で、66157684人。1419歳人口1000人当たりの比率は58年〜65年が最も高く、51.769.4である。総検挙人員の4割以上を少年が占めている。
 この時期とくに多かったのは強姦で、総検挙人員の半分以上が少年である。強盗もこの頃が最多で、2000人以上が検挙された。50年代末から60年代前半は強盗と強姦の検挙者が非常に多い時代だった。


【資料1】凶悪犯罪の検挙人員(人)
Pasted Graphic
 警察庁「平成19年中における少年の補導及び保護の概況」より作成。14歳未満の触法少年は含まない。
 特に断らない限り、以下のグラフも同様。


【資料2】凶悪犯罪の検挙人員の少年人口比
Pasted Graphic 1

【資料3】総検挙人員に占める少年の割合(少年比)    (%)
Pasted Graphic 2



粗暴犯も60年代前半が最も多い

 資料4は粗暴犯の検挙人員、資料5はその少年人口比である*。粗暴犯も凶悪犯と同様、
50年代末から60年代前半が圧倒的に多い。検挙者は4000人以上、人口比は350以上である。この時期は傷害、恐喝、暴行とも多い。

*粗暴防犯としてはもう一つ「凶器準備集合罪」があるが、データが66年からであるため省略した。凶器準備集合罪の検挙人員が最も多いのは7882年で1000人以上。その後減少し、近年は百数十人(07136人)。

暴行・・・暴力をふるったが、傷害には至らないもの
傷害・・・暴力などにより傷を負わせること
恐喝・・・暴力や弱みなどで脅迫することによって、金品などを得ること
強盗・・・暴行や脅迫によって人の財産を奪うこと


【資料4】粗暴犯少年の検挙人員(人)
Pasted Graphic 3

【資料5】粗暴犯検挙人員の少年人口比
Pasted Graphic 4



凶悪犯・粗暴犯は60年代後半から急減する

 このように
50年代末から60年代前半は、凶悪犯も粗暴犯もきわめて多かった。だが、60年代後半から急減し、70年代に入ると凶悪犯も粗暴犯も少なくなる。
 その後、80年代の初めと2000年前後に山ができている。だが、凶悪犯が増加した時期のピーク(少年人口比)は、6069.48120.20326.8。粗暴犯は60373.282242.02000220.860年代のピークからすれば、はるかに低い。

 この資料1・2および資料4・5と資料6の刑法犯少年の全検挙者のグラフを見比べると、かなり違った軌跡をたどっていることが分かる。資料6では犯罪少年が60年代、80年代と山が大きくなりながら増えているように見えるが、凶悪犯や粗暴犯のデータでは、逆に山が小さくなりながら減少している。
 とくに80年代はじめは、資料6では巨大な山になっているが、凶悪犯ではごく小さな隆起しかない。万引きや放置自転車の乗り逃げといった「初発型非行」が大部分を占める資料6は、必ずしも凶悪犯や粗暴犯の動向を示すものではないのである(「少年犯罪は増えたか」のページ参照)。


【資料6】刑法犯少年の検挙人員、少年人口比の推移
Pasted Graphic 5
 警察庁07(平成19)年版『警察白書』http://www.npa.go.jp/hakusyo/h19/honbun/index.html


殺人も60年代後半に急減
 最も凶悪で悪質な犯罪であるはずの殺人について見てみると、資料6とは異なる傾向がより明確になる。資料7は殺人の検挙人員、資料8は少年人口比である。

 殺人は50年代から60年代初めまでが最も多い。検挙者数は51年と61年が最多で448人。67年まで300400人台である。以後急減し、75年から100人を割る。神戸事件(酒鬼薔薇事件)が起きた97年は75人。98年から01年まで100人台に戻ったとして問題にされるが、02年から減少し、07年は65人、08年は55人である(触法少年を含む)。
 少年人口比では、51年が最高で4.4、次いで546061年が3.970年代半ばから90年代半ばまで1を割る。少年犯罪の凶悪化がさかんにいわれ、少年法が改正された2000年は若干上昇したものの1.2。その後下がって07年は0.8である(少年人口比は触法少年を含まない)。
 この7・8のグラフでは、凶悪犯と粗暴犯全体のグラフにあった80年代前半の山はない。殺人は60年代後半に急激に減り、70年代半ば以降は非常に低い水準にとどまっているのである。

 11歳の少女による佐世保事件で凶悪犯罪の低年齢化が社会問題になったが、資料7にあるように、14歳未満の触法少年による殺人が増えているわけではない。最も検挙数が多かったのは60年の15人。01年は10人と多かったが、佐世保事件の04年は5人、近年は3〜6人である。

*なお、放火は50年代前半が多く、それ以後大きく上下を繰り返している(69718182年が突出して多い)。総じて減少傾向にあるが、他の犯罪の変動とはかなり異なる傾向にある。


【資料7】少年による殺人の検挙人員(人)
Pasted Graphic 6
 触法少年(14歳未満)を含む。07年版『犯罪白書』と警察庁「少年非行等の概況」(2009.2)より作成。
 
http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen38/syonenhikou_h20.pdf

【資料8】殺人検挙人員の少年人口比
Pasted Graphic 7
 触法少年を含まない。


大人の殺人・強盗も50年代〜60年代が最も多い

 参考までに大人を含めた殺人・強盗のデータを載せた。やはり
5060年代が殺人も強盗も最も多く、その後減少する。都市化によって治安が悪くなったといったイメージがあるが、資料9を見る限り、それは多分に誤解である。


【資料9】殺人・強盗の認知件数と検挙人員・検挙率(成人と少年の合計)
Pasted Graphic 8
 2003(平成15)年『犯罪白書』


2000年頃の強盗・傷害・恐喝の増加

 以上見てきたように、戦後の長期的な推移を見れば、少年による凶悪犯も粗暴犯も全体として減少してきた。とくに殺人・強姦・暴行は減少が著しい。そうである以上、私には少年犯罪が「凶悪化」しているとはとても思えない。

 だがどうもよく分からないのは、90年代後半から2000年代前半の山である。なぜ凶悪犯罪のなかで強盗だけこのころ急増したのか。また、なぜこのころ暴行は減っているのに、傷害と恐喝は増えているのか。

 2003(平成15)年版『犯罪白書』は、「変貌する凶悪犯罪とその対策」と題して、かなりくわしく強盗について分析している。そこから読み取れるこの時期の少年強盗犯の特徴を見てみよう。

1617歳の少年による強盗が増加〕90年代後半から強盗犯少年の検挙人員が急増するが、年齢層別に見ると、1617歳の年中少年による犯罪が最も増え、かつ突出して多くなった。ついで1819歳の年長少年の犯罪が増加している。80年代半ばから90年代初めにかけて少年人口比はどの年齢層も5前後だったのに対し、02年は年中28.3、年長16.6、年少12.4である。

〔路上強盗が急増〕少年の場合は成人に比べてもともと侵入強盗が少なく路上強盗が多いが、97年以降、これまで以上に路上強盗が急増した。

〔共犯率が増加〕少年の強盗の共犯率が、87年の52%から92年以降7割に増加した。

〔遊興費充当・小遣い銭欲しさの犯行〕警察庁の調査によると、少年の場合「生活困窮」はごくわずかで、「遊興費充当・小遣い銭欲しさの犯行」と「対象物自体の所有・消費目的」が過半数を占める。

〔とくに無職少年による強盗が増加〕資料10にあるように、96(平成8)年以降、無職少年と高校生、有職少年による強盗の検挙人員が大幅に増えたが、資料11の構成比で見ると、96年から無職少年が増加し、一方有職少年の割合は減少した。

【資料10少年強盗事犯の学職別検挙人員
Pasted Graphic 9
 2003(平成15)年版『犯罪白書』

【資料11少年強盗事犯学職別検挙人員の構成比
Pasted Graphic 10
 2003(平成15)年版『犯罪白書』


若者の失業率の上昇

 このように、
90年代後半から急増した強盗において、とくに増えたのが1617歳の無職少年による集団的な路上強盗だった。
その背景には、若者の失業率・無業率の上昇がある(浜井2007)。03年版『犯罪白書』も、社会的な背景として、失業率や高校中退率の上昇を挙げている。もっとも、同白書は「家庭の教育力の低下」も指摘しているが、この時期急に家庭の教育力が低下したとは思えない(では強盗が減少すると、家庭の教育力が向上したということになるのか?)。

資料1216から明らかなように、90年代後半から2000年代はじめは、1519歳の完全失業率が上昇し、中卒無業者とフリーターが最も増えた時代だった。「学校生活・学業不適応」による高校中退者も増加する。強盗は03年がこの時期のピークで以後減少に向かうが、それと若干前後して若者の失業率、中卒無業者数、高校中退率、フリーター数も減少していく。
 03年版『犯罪白書』は、この時期の強盗の増加について、「不況のため青少年の失業率は高く、高校中退ばかりでなく中学校・高校を卒業しても就業が困難であるなどの事情に、青少年の就業意欲の低下等も加わり、無職少年が増加傾向にある」と指摘している〔第5711〕。中学、高校卒業後、あるいは高校中退後の見通しのなさや生活の不安定さが、少年犯罪増加をもたらした最も重大な要因だろう。


【資料12青少年の完全失業率
Pasted Graphic 11
 2003(平成15)年版『犯罪白書』

【資料13青少年失業率の推移
Pasted Graphic 12
 2008(平成20)年版『青少年白書』

【資料14中卒無業者数の推移
Pasted Graphic 20
 2003(平成15)年版『犯罪白書』

【資料15フリーターの人数の推移
Pasted Graphic 14
 2008(平成20)年版『青少年白書』

【資料16高等学校中途退学者数の推移
Pasted Graphic 15
 2003(平成15)年版『犯罪白書』

 *08年版『青少年白書』によると、03(平成15)〜06(平成18)年の高校中退率は21.〜2.2%。05年からは国立も含む。

【資料17事由別高等学校中途退学者数の割合の推移
Pasted Graphic 16
 2008(平成20)年版『青少年白書』 05年からは国立を含む。


厳罰化の影響?

 だが、こうした社会背景だけが、
2000年前後の強盗や粗暴犯増加の要因ではないのではないかと思う。強盗や粗暴犯に対する警察の取り締まりの強化が、認知件数や検挙数を増加させたと指摘されている(浜井2004)。
 このことを直接検証する材料を持ち合わせてはいないが、97年の神戸事件を契機に少年犯罪の凶悪化論と厳罰化論が広がり、そうした世論を前提に少年法が改正されたことは記憶に新しい。少年に対する厳しい世論や取り締まる側の姿勢もまた、強盗の検挙数を増加させた一因ではないか。だとすれば、はたして強盗の検挙数の増加とともに、少年犯罪の凶悪化が進んだと言えるかどうか。

 資料18は強盗の内訳である。これは少年を含む全検挙人員等の推移だが、いずれも戦後直後から60年代までが最も多く、その後急減する。90年代後半から再度増加に向かうが、この時期、最も急増したのが強盗致傷である。それに対し、強盗致死は強盗致傷に比べるとわずかな増加にとどまる。つまり、強盗の増加に比例して、強盗致死という重罪が増えたわけではないのである。

 近年の少年による強盗の内訳が資料18である。強盗致死(強盗殺人)は強盗検挙人員の1%前後で、検挙人員は20人前後。これ以前のデータが入手できていないので比較できないが、この数値でかつてより増えたと言えるかどうか。資料18と同様、取り締まりの強化によって増えたのは強盗致傷であって、強盗致死は増えていないのではないかというのが私の推測である。



【資料18強盗の罪名別検挙数などの推移
Pasted Graphic 19
 2003(平成15)年版『犯罪白書』

【資料19少年の盗犯検挙人員の内訳(人)
Pasted Graphic 18
 警察庁「平成12年の犯罪」等より作成 http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm


【引用参考文献】ーーーーーーーーーーーーーー
浜井浩一「非行・逸脱における格差(貧困)問題」『教育社会学研究』第80集 2007
浜井浩一「日本の治安悪化神話はいかに作られたか」『犯罪社会学研究』29号 2004
*どちらもCiNiiで読むことができる。http://ci.nii.ac.jp/