【少年非行2 
 非行の原因論(1)
 非行の原因はどう考えられてきたか?  2007.2.27





子どもを非行に走らせる家庭の原因は何か内閣府の世論調査より

 少年犯罪や非行などの青少年問題をもたらす家庭の原因は何だと思うか。内閣府の世論調査は繰り返し聞いてきた。誘導的な質問項目で有名な(?)世論調査だが、世論の変化やアンケート作成者の認識の変化をそれなりに知ることができる。特徴的な結果を紹介しよう。内閣府のホームページから検索。 http://www8.cao.go.jp/survey/index-all.html

1965(昭和40)年 青少年に関する世論調査(対象30才以上)
1967(昭和42)年 青少年問題に関する世論調査20才以上)
 
 ①の調査はおもしろい。「青少年の犯罪や非行は最近ふえている」81.5%、青少年の非行問題は「重大な問題だ」91.7%という回答にも関わらず、近ごろの家族を見ていて、「子供のしつけに力を入れていない家庭が多いと思いますか」という質問に、「力を入れていない家庭が多い」は23.3%で、「そういうことはない」が49.5%なのである。「近ごろの家族を見ていて」という限定があるからかもしれないが、家庭でのしつけに関して今ほど厳しい見方をしていないように思う。
 青少年の非行化の主な原因と思うものを1つか2つ選べという質問の答えは、家庭35.0%、友だち32.8%、周囲の環境31.3%、映画,雑誌,テレビ28.1%である。家庭が1位だが、家庭以外のものもほとんど同じ割合で並んでいる。家庭に批判や関心が集中していないのである。
 また、家庭の問題として、「青少年の不良化にもっとも影響する」ものを聞いた設問では、上位から、家庭の不和32.3%、放任18.9%、親が留守がち10.4%、片親または両親がいない7.5%、親が子供を理解できない7.0%、甘やかし6.7%、家庭が貧しい4.4%。
 後の調査では必ず挙げられるしつけの低下や親子の会話は、そもそも選択肢に入っていない。それから、家庭の不和が1位で、甘やかしが少ないのも興味深い。非行が親のしつけや養育の失敗というようには、あまり捉えられていなかったのではないか。もっとも、家庭の養育問題として、放任が2位に入っているが、後の調査になると放任は下位に下がる。この頃の養育問題は放任が主で、過保護や甘やかしは、まだそれほど問題になっていなかったのかもしれない。

 だが、2年後の②の調査では、家庭に対する見方は多少厳しくなっている。 しつけに力を入れていない家庭が多いという回答が6%増え(29.3%)、そういうことはないがその分減った(43.4%)。また、非行原因としては、家庭が49.2%と大きく増え、周囲の環境は横ばい、友だち、映画・雑誌・テレビは減少した。

1974(昭和49)年 社会教育・青少年の徳性に関する世論調査20才以上)

 今の青年は知識は豊富であるが, 実践が伴いにくい。権利意識は明確であるが,義務や責任の観念に欠ける。個人的な生活への関心が強く,自己の意見を率直に述べるが,他人への思いやりや社会公共への関心が薄い。明朗,快活でものの考え方が合理的であるが,せつな的で克己心,忍耐力に欠ける。社交性に富んでいるが,ことばづかい,動作などの日常の礼儀作法の基礎が身についていない。
 ①の7年後に行われたこの調査は、上記のように思うかどうかを聞いているのだが、どれも半数強の人がそう思うと答えている。それにしても、質問自体に何だか「悪意」を感じる。いったい、何のための調査なのか?
 このいずれかに「そう思う」と答えた人が、主な原因として挙げたものを、上位から並べると(複数回答)。

   家庭における基礎的なしつけの不足 (38.1)
   個人中心的な社会風潮 (36.2)
   親の子供に対する過保護傾向 (31.6)
   学校教育の在り方 (29.1)
   マス・コミによる情報の氾濫 (21.7)
   地域社会における連帯感の低下 (17.5)
   日常生活における大人の態度・行動 (15.2)

 家庭での子の養育を問題にしたしつけの不足と過保護がともに上位に上がっていることが注目される。家庭についての選択肢は、この2つしかないことから、しつけの不足と過保護が、この頃、とくに問題になっていたことがうかがわれる。

1983(昭和58)年 青少年非行問題に関する世論調査20才以上)
1988(昭和63)年 少年非行問題に関する世論調査20才以上)
1995(平成7)年 少年非行問題に関する世論調査20才以上)

 この3つは、選択肢も方法もほとんど同じである。少年が非行に走る最も大きな原因については、この12年間変化はない(1つ選択)。家庭にあるという答えが最も多く、46%ほど。次が少年自身で、2225%。その次が社会環境・社会風潮で、1618%。学校は一貫して少なく、2%ほど。
 少年非行に関して、家庭の何が問題かという質問への答えは以下の通り(複数回答)。

   幼少期からの家庭でのしつけが不十分  ④51.8  ⑤48.3  ⑥53.1
   親が子供を甘やかしすぎている      42.5   42.2   44.7
   親と子供の会話,ふれあいが少ない    38.9   41.2   49.1
   親の権威が低下している         28.6   26.8   30.9
   家庭内が円満でない           26.1   27.4   38.4
   親の教育方針が進学中心にかたよっている 22.8   30.4   34.5
   親が子供を放任している         22.2   19.6   30.2
   親の生活態度が悪い           22.2   20.7   27.6
   親が子供に干渉しすぎている       18.3   22.7   20.8
   親が子供に厳しすぎる                6.4    6.8

 ここでも、それほど大きな変化はないのだが、1995年に行われた⑥の調査では、全体として親に厳しい見方になっている。ほとんどの項目で回答率が上昇しているが、とくに増えたのが親子の会話・ふれあいが少ないで、⑥ではしつけに次ぐ2位になっている。

1998(平成10年)年 少年の非行等問題行動に関する世論調査20才以上)

 非行の原因を聞いたもの(複数回答)。④〜⑥と同じような調査だが、選択肢がかなり増えているので、数値は比較できない。この⑦では、しつけの不足と甘やかしの順位が⑥と入れ替わっている。なお、この調査では、20歳未満の者にも同じ質問をしているが、全体として、若者はこれほど親に対してネガティブな見方はしていない。

 親が子供を甘やかしすぎている (54.0%)
 親と子供の会話,ふれあいが少ない (53.9
 幼児期からのしつけが不十分 (38.9
 親の権威が低下している (34.7
 親が子供を放任している (29.6
 親の教育方針が進学中心に偏っている (29.6
 親が確固とした子育ての方針を持っていない (26.3
 父親が子育てに参加せず,母親にばかり子育ての負担 (24.2
 親が子供に干渉しすぎている (25.8
 家庭内が円満でない (21.8
 親が自己中心的である (20.0
 親の生活態度が悪い (19.1
 親が子育てに関して十分な知識を持っていない (17.8
 親が子供に暴力をふるう,虐待する ( 8.9


1960年代からの変化

 こうして見てくると、非行の原因として、家庭のどこに問題があると考えられてきたのかがわかる。以下は、上記に載せなかった調査も含め、非行等に関する世論調査を概観した感想。

1)非行の原因が家庭に集中する
 1960(昭和35年)の「青少年の社会環境に関する調査」(20才以上)では、青少年の不良化の原因として(2つまで回答)、「本人の家庭が貧しい、しつけがよくない、親子関係がしっくりしていない」を挙げたものが最も多い。①の1965年調査でも、家庭が最も多かった。家庭のあり方が少年非行の原因であるという見方は、1960年代には一般的なものになっていたのだろう。
 だが、面白いのは①の調査で、家庭とともに、友だち、周囲の環境、映画,雑誌,テレビがほぼ同じような数値で並んでいることだ。家庭に最も大きな原因があるとしても、それ以外のものにもかなり原因があると捉えられていたのである。
 1983年〜1995年に行われた④〜⑥になると、家庭が他を引き離してトップになる。もっとも、これは1つ選ぶという形式だったため、家庭がとくに高くなったとも考えられる。しかし、2001(平成13年)の「少年非行問題等に関する世論調査」(20才以上)では、複数選択であるにもかかわらず、家庭環境(74.3)が断トツ1位であり、以下、本人自身の性格や資質(41.4)、社会環境(36.2)友人環境(32.1)の順。家庭以外のものへの関心が減り、家庭に原因があるという見方が強まったことが分かる。

2)しつけや養育のあり方が問題にされる
 ①の調査では、家庭の問題として挙げられているのは、家庭の不和、放任、留守がち、片親・親がいない、甘やかし、親が子を理解できないの順である。このうち、上位にある家庭の不和、留守がち、片親・親がいないといった問題は、家庭教育の条件や前提ではあっても、家庭教育そのもののではない。放任は家庭の教育問題だが、これが2位と上位にあるのも、この調査の特徴である。また、親が子を理解できないというのが選択肢に挙がっているのは、1960年代、戦後の価値観の転換による世代の断絶がしばしば言われていたからだろう。後の調査ではこの選択肢はなくなる。
 1974年の③以降になると、家庭に関心が集中するだけでなく、家庭の中でも、しつけや養育のあり方に原因が限定されていく。夫婦仲が悪く家庭円満でないという選択肢は残るものの、それ以外の家庭の環境や条件、家族形態などにはほとんど目が向けられない。その結果、非行はもっぱらしつけの失敗と見なされるようになる。

3)親の養育問題は放任からしつけ・甘やかしへ
 では、家庭での子の養育の、いったい何が問題だというのか。非行の原因として挙げられる養育問題としては、①では放任が最も多くて18.9%、甘やかしは6.7%にすぎない。それが、1980年代以降の調査(④〜⑦)では、しつけが不十分と甘やかしのどちらかが常にトップを占めるようになる。他方、放任は4位〜7位にすぎない。子どもに甘くてしつけのできない親というイメージが形成され、それが非行の原因と見なされるようになる。

4)親子の会話・ふれあいの不足
 1990年代になると、非行をもたらす親の要因に微妙な変化が現われる。1980年代に3位だった「親子の会話や触れ合いが少ない」がさらに上位に上がるのである。1992(平成4)年の6歳〜18歳未満の子を持つ親を対象とした「親の意識に関する世論調査」では、2位をかなり引き離してトップ。もっとも、これは親の意識調査だからだが、⑥⑦の調査でも1位に僅差の2位。親子の絆が弱まっている、親子関係が希薄化している、コミュニケーションが不足しているといったことが言われるようになったことの反映なのだろう。


しつけの低下と親子のふれあいの不足?

 要するに、
1980年代以降、しつけの不足、甘やかし、親子の会話やふれあいの少なさが、非行原因のベスト3となった(1970年代の調査はないので、分からない)。
 だが、私としては実際に親子の会話やふれあいが以前よりも減少しているとはとても思えない。しつけや甘やかしもそうだ(広田照幸『日本人のしつけは衰退したか』講談社新書参照)。だとすると、なぜこうしたことが言われるようになったのか。
 面白いのは、2001(平成13)年の「少年非行問題等に関する世論調査」である(20才以上)。「子供を非行に走らせないようにするために、親は家庭で子供にどのように対応するのが良いと思いますか」という質問の答えは次の通り(複数回答。上位6位まで)。  

   子供と話をしたり接する時間を増やす (68.7%)
   子供の気持ちを聞く (51.9
   円満な家庭を築く (47.9
   すべて母親任せにせず,父親,家族も協力する (46.6
   家庭教育や子育てに責任感を持つなど親としての自覚を持つ (34.6
   子供をきちんとしつける (33.5

 1995年の⑥では、「叱るべきことはきちんと叱る」(71.7%)と「子どもと話をしたり接する時間を増やす」(71.6%)が並んでいたが、この2001年調査では、「子供と話をしたり接する時間を増やす」や「子供の気持ちを聞く」が、「子供をきちんとしつける」よりもずっと高い。子どもを厳しくしつけることよりも、あるいはそれ以前に、何より子どもとよくコミュニケーションをとるべきだという考えが、近年さらに広がったのである。こうした「べき」論の裏返しが、親子の会話やふれあいが少ないという世論を作り出している一因ではないかと思う。

 つまり、非行の原因は何かという世論調査の回答は、実は、現実の非行の原因を表している訳ではない(非行の原因論2)。たとえば、実際はともあれ、親は権威を持つべきだと考えられていた1960年代には、親の権威の低下がしばしば問題にされた。だが、今はそんな風に大声で言う親はあまりいないから、たとえ親の権威がその時代よりも下がっていたとしても、もはやそれほど問題にはされない。

 しつけや親子のふれあいもそうだろう。子どものしつけは親の任務であり、親はしつけをしっかりすべきだと考えられるようになったから、しつけの不十分さやしつけの低下が大きく問題にされるようになった。
 1980年代以降は、しつけをしっかりするきちんとした親と、子どもの話をちゃんときき、子どもを理解する親という2つの理想の間で揺れてきたのではないかと思う。そして、近年、非行の原因として「親子の会話ふれあいが少ない」が上位になったのは、実際に親子の会話やふれあいが減少しているということではなくて、子どもの話をちゃんと聞く派が優勢になったということだろう。