親子関係をめぐる2つの裁判

最近出された親子関係にかかわる2つの裁判について考えてみました。
裁判というのはなかなか不思議です。
何でこんなことにこだわっているのか、何て思ってしまいます。
重要なことは何ナなのかを、まず考えたらどうかと。


Pasted Graphic 7

窓の外をながめるパチ。日本の夜明けか夕暮れか?






■性別を変更した父が親子関係の認定を求めた裁判について(2013.9.13)
父子関係を認定するための「嫡出推定」は子どもの幸福のためではないのか?


大阪の共同通信の記者の方から、今日(2013.9.13)出された「親子関係存在確認請求事件」に関する大阪家庭裁判所の判決について、コメントを求められました。

性同一性障害の方が女性から男性へと戸籍を変更して結婚。妻が人工授精によって子どもを出産したが、出生届の際、嫡出子(婚内子)として認められなかったため、親子関係を認めて欲しいと夫が求めた裁判。判決は棄却。夫の実子でない以上、嫡出子とは認められないという結論。

それに対して、以下のようなことを書いてメールで送りました。棄却ということで、結局私のコメントは載らなかったのですが、せっかくなので。
共同通信の記事はとても簡単なものだったので、朝日新聞の記事を載せておきます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



実子=嫡出子ということを前提にし、実子でない以上、嫡出子とは認められないという判決である。

だが、婚姻中の子を父の子と見なす「嫡出推定」という制度は、実子であるという蓋然性を前提とするとしても、実子かどうかをあえて問わない制度であり、嫡出子は実子でなくてはならないということではない。夫が嫡出拒否をしない場合、AID(人工授精)で子どもが生まれた場合などがそれに該当する。また、養子の場合も、嫡出子と認められる。

これらが嫡出子として認められているのは、親(父親)が子どもの親であることを認めているからである。婚姻内に生まれ、父が子として認めている以上、血縁関係をわざわざ問うことはしないというのが嫡出推定である。なぜかといえば、父子関係を早く確定することが、子どもの利益につながると考えられているからである。嫡出推定は、そもそも子どもの利益のための制度である。
そうである以上、婚姻内に生まれ、父が認めている子を父の子として認めない理由はない。にもかかわらず、父子関係を認めない今回の判決は、実子にこだわるあまり、子どもの幸福・利益という嫡出推定の原点すら省みない判決である。

しかも、今回の判決からすれば、AIDで生まれた数万人の子は、みな嫡出子とは認められないものとなってしまう。
性同一性障害に関する特別法や、特別養子制度、生殖医療技術の進展などにかかわって、実子=嫡出子という枠組はもはや崩れている。そのことを前提に、子どもの幸福、利益という点から親子関係を認定する必要がある。

さらに、AIDで生まれた子と今回のケーでは、実際に扱いに差別があるにもかかわらず、判決は、AIDで生まれた子の場合は、届け出の際には「明らかではない」として、差別的な扱いを肯定(黙認)する。このことは、性同一性障害に対する差別であるとともに、法の下の平等という重大な問題を、「戸籍管掌者」の判断や手続きに還元または矮小化するものである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


*性別変更の男性と人工授精の子、親子と認めず 大阪家裁 朝日新聞 2013年9月13日13時8分2 

 心と体の性が一致しない障害で、女から男に性別を変えた兵庫県宍粟(しそう)市の男性(31)が、第三者の精子を使った人工授精で妻(31)が産んだ次男(1)との親子関係の確認を求めた訴訟の判決が13日、大阪家裁であった。久保井恵子裁判官は「民法の実子の規定は血縁関係の存在が前提だが、性別変更した男性との性的交渉により妻が次男を生んだのでないことは明らかだ」と述べ、男性の請求を棄却した。男性は控訴する方針。

トピックス「性同一性障害」
 判決は「現行民法は人工授精などによる父子関係を想定していない」と指摘。さらに、「夫の同意があれば父子関係を認めることは立法論として十分考えられるが、そのような立法がない以上、法律上の親子関係を認めることはできない」と結論づけた。

 男性側は「性別変更を理由に認めないのは、法の下の平等を定める憲法に違反する」と主張したが、判決は「民法の適用に差別はない」と退けた。

 判決などによると、男性は2008年3月、性別を変え、翌月妻と結婚。精子提供を受けて12年5月に次男をもうけ、本籍地の東京都新宿区に嫡出子(婚内子)として出生届を出した。だが、男性の戸籍を確認した新宿区は「血縁関係は認められない」と判断。次男を非嫡出子として扱い、戸籍の父の欄を空欄にしていた。男性は、同様に戸籍の父の欄を空欄にされた長男(3)についても別の訴訟で争っている。(岡本玄)

 〈性同一性障害特例法〉 心と体の性別が一致しない人の性別変更について定めた法律で、2004年7月に施行。複数の専門医が診断▽20歳以上▽性別適合手術を受けた▽未成年の子がいない――などの条件を満たせば、家裁に性別変更を申し立てられる。12年末までに3584人が認められた。法務省によると、性別変更した男性が結婚後、妻が第三者の精子でもうけた子の出生届を出した例は9月現在で33人。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


■婚外子の相続差別を憲法違反と認定した最高裁判決について(2013.9.5)
何のために婚外子差別をしてきたのか?



9月4日に、婚外子の遺産相続分を嫡出子の半分とする民法の規定を違憲と判断する最高裁大法廷決定が出されました。その判決に関する新聞記事を読みながら、私は大きな誤解をしていたことに気がつきました。

婚外子の相続を婚内子と同じにすると「家族制度が崩れる」などと言われたりします。それは、男性に対して、「浮気はするな」と言うためなのかと漠然と思っていました。
男があちこちで浮気をして、あちこちで婚外子が生まれると、結婚があちこちで壊れる。なので、「浮気をして子どもが生まれると、その子どもの相続分は、愛情のなくなった妻との間に生まれた子の半分になってしまうぞ」という、男性に対する脅しなのかと。
といっても、困るのは浮気男の方ではなくて、その子どもなのですが。

でも、そうではなかったようです。浮気=男、あるいは、男=浮気という私のステレオタイプの発想が間違いの元でした。
母親が1人で子どもを2人育てていたとします。1人は離婚した元夫の子ども、もう1人が離婚後に生まれた婚外子。
で、母親が亡くなった場合、その母親が残した資産の相続分が、婚外子は元夫の子の半分になってしまう。そんな事例が先日『朝日新聞』に載っていました。

つまり、女性に対して、「結婚しないで子を生むな!」というための制度だったのですね。どんな事情であれ、結婚しないで子どもを生むと、その子の相続額は婚内子の半分になるぞ、という女性に対する脅しだったのです。

それにしても、先のケースはものすごく違和感があります。なぜでしょうか。
おそらく、父の子どもは結婚している間に生まれた子どもだけで、未婚で生まれた子どもは、母の子という制度になっているからでしょう。

母にとっては、結婚して生んだ子も未婚で生んだ子も、どちらも自分の子ども。でも、父はそうではない。少なくとも制度上は。
これほどアンフェアなのに、子どもの相続に関する婚外子差別だけは平等に負わせる。
やはり、本当に変な制度です。