【少子化】 
 子育ての「負担感」
 感精神的な負担よりも経済的な負担の方が大きい
  2009.3.1





育児の負担感とは?

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046月に閣議決定した「少子化社会大綱」は、「子育ての不安や負担を軽減し、職場優先の風土を変えていく」という小見出しの下、次のように述べている。

 「家族の多様化、小規模化が進む中で、家庭で子育てに当たる親には子育ての負担を一人で抱え込むこと、社会活動を制限されることなどに対する不安が大きく、子どもを生み、育てる上での障壁も大きい。特に低 年齢児や在宅での育児に対する支援は限られている。」

 要するに、少子化対策が言う育児の「負担感」というのは、ほとんど育児不安と同義なのだろう。核家族化による母親の孤立した状況が生む育児不安。だが、多くの人が感じている育児の負担感というのは、そうした精神的な負担というよりも、経済的な負担だろう。国に何とかしてもらいたいのも、精神的な負担ではなくて、経済的な負担である。少子化と育児の負担に関する意識調査を見てみよう。


2005年内閣府「少子化に関する国際意識調査」

 少子化に関する調査を調べていて、
2005年の内閣府「少子化に関する国際意識調査」がおもしろかった。いくつか興味深かった点を紹介したい。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa17/kokusai/index.html

 これは、日本、韓国、アメリカ、フランス、スウェーデンの20−49歳(男女)を対象に行った調査である。どの国もほしい子どもの数は、平均2.33.4、現在の子ども数は、1.51.7でほとんど違いはない。子どものいない人は3540%。

 資料1は、今後子どもをさらに増やしたいかどうか聞いたもの。日本と韓国は、「今よりも子どもは増やさない」という答えが多く、「希望数になるまで子どもを増やしたい」という答えが少ない。一方、スウェーデン、アメリカ、フランスは、「希望数になるまで子どもを増やしたい」という答えが多い。


【資料1】さらに子どもを増やしたいか
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 資料2は、希望数まで子どもを増やさない、あるいは今よりも子どもを増やさない(増やせない)理由である。日本、韓国、アメリカは「お金がかかりすぎる」が最も多い。それに対して、フランスとスウェーデンはお金の問題は上位にない。



【資料2】さらに子どもを増やさない理由
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 とはいえ、子育てをしていて負担に思うことは、いずれの国も「子育てに出費がかさむ」が一番多い。育児の負担感というのは、精神的な負担感以上に、経済的な負担感なのである。精神的な負担感は、アメリカを除いて約3割。日本が特に高いというわけではない。



【資料3】子育てをしていて負担に思うこと
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 資料4は、子どもにいつまで経済的に面倒をみるべきだと考えているかという質問の答えである。国によってかなり答えが違うのが興味深い。日本と韓国は大学を卒業するまでが最も多い。それに対して、アメリカ、フランスは、スウェーデンは、「学校卒業後も、自分の仕事を持つまで」というのが意外に多い。

 意外と言ったのは、日本の子どもは自立が遅い、いつまでも親から自立しないといったことがよく言われるからである。もっともスウェーデンは、高校卒業までが一番多いが。

 おそらくこうした違いは、自立云々よりも、大学にかかる私費負担の違いや、学校卒業後の就労状況の違いが反映しているのだろう。韓国の場合は、日本と同様、私立大学が7割と圧倒的に多く、親の経済的負担が重い。しかも大学の授業料が上昇している。小林雅之によれば、ソウル国立大学の授業料は200045万から200775万円、私立の高麗大学校は72万円から111万円に上昇したという(『進学格差』ちくま新書2008130頁)。


【資料4】子どもに対する経済的支援
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 資料5は、「あなたの国は子どもを生み育てやすい国だと思いますか」とたずねたもの。「そうは思わない」という答えは、日本
50.3%、韓国79.8%と高い。それに対し、アメリカ78.2%、フランス68.0%、スウェーデン97.7%が、自分の国は子どもを生み育てやすいと答えている。


【資料5】子どもを生み育てやすいかどうか
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 「育児を支援する施策を国が実施すべきである」という答えは、アメリカを除いて9割が支持している(アメリカは3割弱が反対)。日本は、「是非ともそうすべきである」62.0%、「どちらかといえばそうすべきである」34.6%。計96.6%の人が、国は施策を実施すべきであると考えている。

 資料6は、育児を支援する施策として重要だと思うものを聞いた結果である。日本は、「育児手当など、子育ての経済的負担を軽減するための手当の充実」が最も多く、67.5%。3位、4位に挙げられているのも経済的な支援である。


【資料6】育児を支援として重要な施策
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 このように見てくると、日本と韓国では、子どもを生み育てるための経済的負担がどれほど重圧になっているかがよくわかる。この調査だけではない。多くの意識調査で子ども数の数を制限する理由や育児の負担として1番に挙げられているのは経済的な負担であり、希望する対策として最も多いのも経済的な支援である(*)。

 こうしたことは政府も厚生労働省も内閣府も、当然わかっているはずである。だが、子育て家庭に対する経済的な支援は、具体的な政策課題にはなかなか上がらない。07年の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略は、現金給付(児童手当など)と現物給付(保育園など)のバランスをとった家族政策の充実が必要と言いながら、結局は「現物給付を優先した家族政策」を提唱している。
 親の経済的な負担が重いことは十分わかっているにもかかわらず、精神的な負担にすり替えることによって、子育て家庭に対する財政的な支援を回避しているように思えてならない。

 資料5にあるように、スウェーデンでは75%の人が、自分の国はとても子どもを生み育てやすい国だと考え、「どちらかといえばそう思う」を合わせると、97.8%がそう思うと答えている。
 あまりに素朴な疑問なのだが、日本の政治家や官僚は、国民がそんなふうに思う国を創りたいとは思わないのだろうか。


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子育ての負担や悩み、子どもを制限する理由、希望する子育て支援に関する調査としては、次のようなものがある。いずれも経済的な負担を挙げる回答が多い。

厚生労働省「第6回21世紀出生児縦断調査」(06年、07年)
2001年に生まれた子どもの追跡調査。第6回は子どもが56ヶ月の時点。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/06/index.html
子育ての負担や悩みとしては、子どもの成長とともに「子育てで出費がかさむ」が増え、子どもが5歳半となった第6回調査では、42.3%と最も多くなった。

子どもを育てていて負担に思うことや悩み
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国立社会保障・人口問題研究所「第13回出生動向基本調査」(05年)50 歳未満の妻
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou13/doukou13.asp
理想の子ども数を持たない理由は、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が最も多く、659%。若い世代ほどそう答える割合が高い。また、理想は3人だが予定は2人という場合、「お金がかかりすぎる」が74.7%と高い。
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内閣府「少子化対策に関する特別世論調査」(09年)20歳以上
http://www8.cao.go.jp/survey/tokubetu/h20/h20-syousika.pdf
この調査では両立支援が最も多いが、妊娠出産への支援、経済的負担の軽減も同等に多い。

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内閣府04年度「少子化社会対策に関する子育て女性の意識調査」子どものいる2049歳の女性
 http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/m_html/1mokuji-html.html
「少子化対策として重要である」と考えるものの1位は、「経済的支援措置(保育・教育費への補助、医療費補助、児童手当など)」で、96.9%。

内閣府04年度「国民生活選好度調査」15歳以上80歳未満
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/senkoudo/senkoudo.html
理想の子ども数に比べ現実に予定している子ども数が少ない理由の1位は、「子どもを育てるのに経済的負担が大きい」57.6%。そう答えた人の理由は、「教育のための費用があかるから(私立学校や塾の費用など)」が最も多く59.1%、2位は「世帯収入が少ないから」で48.4%。

厚生労働省「少子化に関する意識調査研究」(04年)2049
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/08/h0813-2/index.html
子どもがいないか、子ども1人の若い夫婦の場合、予定の子ども数が理想より少ない理由は、「経済的負担が大きいから」が圧倒的に多い。2031歳で子どものいない既婚男性63.0%、同女性67.2%、2035歳の子ども1人の既婚男性73.7%、同女性66.7%がそう答えている。