【少子化】
子育てのコストが高いから子どもが減る 2006.6.10
■教育費が問題
私には、政府が本気で少子化対策を進めようとしているようにはどうも思えない。その理由は、政府が親の教育費負担を減らそうとは少しも思っていないからだ。
少しもというのは言い過ぎかもしれない。児童手当は、確かに以前よりは拡大した。だが、2人目まで月5000円というのは、ないよりマシという程度。これによって出生数が増えるとは、政府も政治家も考えていないだろう。
よく指摘されているように、理想の子ども数より子どもを生まない理由のダントツ1位は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」である(国立社会保障・人口問題研究所、前掲調査)。そして、最もお金がかかるのは、言うまでもなく高校卒業後である。にもかかわらず、児童手当や保育園しか話題にあがらないのが不可思議で仕方がない。ともかく出生数さえ増やせばいい、後はどれだけお金がかかろうと親の責任といった発想がミエミエな気がする。
ちなみに、2004年版『少子化白書』によれば、大学(昼間部)に進学した場合、年間の学生生活費(学費と生活費の合計)は、国立で約159万円、私立で約215万円、平均約202万円。大学4年間で約807万円である。
2005年版『国民生活白書』は、子育てにかかる費用について、次のように分析している。
・世帯年収が多いほど、教育のための費用がかかりすぎると答えている。また、20代、30代
より、40代の方が 教育のための費用がかかりすぎると答えている。
・子どものいない夫婦は、子どものいる夫婦より子育てに必要な年収を高く見込んでおり、
経済的な負担が重いと感じている
・子どもが2人以上いる女性の半分が、子どものためにお金がかかり過ぎていると感じている
が、35〜49%の人が、教育費を今後増やしたいと答えている
・子どもが18歳〜21歳の時に、消費支出がピークに達する
・所得の伸び以上に教育費が増えている
・消費支出に占める教育関係費の割合は、この10年間わずかづつだが上昇している
・大学進学率の上昇により、18〜21歳の子どものいる世帯の教育関係費が急速に増えた
・小中学生以外では、授業料等が教育関係費の大半を占めている
■高校卒業後の進学率
小泉首相は周囲に「昔の貧乏な頃の方がよほど子だくさんだった。金のかからない話もあるのではないか」ともらしたとか(朝日、2006.6.2)。朝日新聞の記事だと、だから、女性の仕事と育児の両立が少子化対策になったように読める。それが正直なところではないか!?
確かに、小泉首相の言うように、貧乏な頃の方が子どもが多かった。だが、それは子どもにお金がかからなかったからで、今少ないのは子どもにお金がかかるからだ。小泉首相がお金を出したくないのは分かるが、日本が貧乏だった頃のように、子どもにお金をかけるなと言っているわけではないだろう。時代はますますお金がかかる方向に動いている。
というのは、1990年代に入ってから、大学進学率が毎年上昇しているからである。2005年の進学率は、以下の通り(文部科学省『学校基本調査』)。
大学進学率 計44.2% 男51.3% 女36.8%
短期大学進学率 計7.3% 男 1. 8% 女13.0%
大学・短大進学率 計51.5% 男53.1% 女49.8%
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/05122201/005.htm
男性の場合、2005年の大学進学率は51.3%で、はじめて50%を超えた。女性の場合、1990年代以降、短大離れが進む中で、大学進学率が急速に上昇した 。もっとも、女性の大学進学率は男性よりだいぶ低いが(拙稿「女性の大学進学率の上昇と女子大学」)。ともあれ、大学・短大は、18歳人口の半分が進学する ユニバーサル段階に達したのである。
これに専修学校を加えれば、進学率はさらに上がる。2005年の専修学校専門課程への進学率は19%(現役のみ)。専修学校を含めれば、実に7割が、高校卒業後進学しているのである。
■親が子どもの経済的な面倒を見る期間
高校卒業後も多額の教育費がかかるようになった結果、親の負担感は大幅に増大している。「あなたのご家庭では、お子さん全員の教育費は、あなたの家の家計状態から見ていかがでしょうか」という質問に対する回答は、下のように1976年と1998年では大きく異なる。
まだ余裕がある 26.6% → 7.0%
ちょうどよい 45.1% → 22.1%
ちょっと苦しい 21.9% → 46.9%
非常に苦しい 2.9% → 20.3%
「平成10年度国民選好度調査」 大学までの子どものいる人を対象。
http://www5.cao.go.jp/99/c/19990223senkoudo/19990223c-senkoudo.html#5
こうした時代にあって、当然、親もそれなりの覚悟をしなくてはならない。
「平成4年度国民生活選好度調査」では、男の子については男性の66.5%、女性の74.3%が大学教育まで受けさせたいと答えてる。女の子の大学進学については、男性28.6%、女性31.2%で低いが。
「 平成16年度国民生活選好度調査」では、71.6%が「大学への進学については本人の意思を尊重したい」と答えている。7割の人は、子どもが行きたいと言えば、大学まで行かせようと考えているのである。
当然、親が子どもの経済的面倒をみる期間も延びる。6割が、大学卒業か定職に就くまで、経済的援助をしてもいいと答えている。 2005年版『国民生活白書』に載っている下のグラフ参照。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h17/01_honpen/html/hm02030102.html
■少子化対策は親の経済的な負担を減らすことだ
以上のように、子育てにかかる費用が増大している。とくに1990年代以降、大学進学率が上昇したことが大きい。その結果、いまや7割の人が子どもが大学まで進学することを想定しており、6割の人が大学卒業まで、あるいは定職に就くまで経済的援助を続けることを覚悟している。 実際、 専修学校を含めれば、18歳人口の7割が高校卒業後進学している。 つまり、今や子どもを生むには、20歳過ぎまで教育費を負担し続けることを想定しないわけにはいかないのである。
おまけに、20歳頃まで大学の授業料は一貫して増えている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/005/011201/011201e1.htm
このように見てくれば、少子化対策としては、まず親の経済的な負担を減らすことだというのは明らかだろう。こんなことは言わずもがななのだが。
この点、少子化対策ではどのような案が考えられているのか。以下は、中央教育審議会の「少子化と教育について(報告)」(2000年)である。
特に高等教育段階での教育に伴う経済的負担に関しては,一定の年齢に達した子どもが経
済的にも自立し,応分の負担をすることの必要性を訴えていく必要がある。また,そのた
めには,子どもが自ら高等教育の費用を負担するための条件を整備するため,能力と意欲
を持つ者に対してその経済的必要度に応じ,奨学金の支給を可能にすることが必要であ
る。日本育英会の奨学金については,学生が自立し,安心して学べるようにするため,有
利子奨学金について抜本的に拡充するなど,奨学金の充実が図られている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/chuuou/toushin/000401.htm
ということで、やはり私には、政府が本気で少子化を食い止めようとしているとは思えない。