【男女の賃金格差】
 男女の賃金格差―若年層収入、女性が上回る? 2011.12.10




30歳未満の若年層収入、女性が上回る?

 『日経新聞』は
20101014日、「30歳未満の女性の可処分所得は月218100円と男性を2600円上回り、初めて逆転した」と報じた。この記事をもとに、ネットでは「男女格差はなくなった」「もう女におごらなくていい」などということばが飛び交っている。
 そうなのだろうか(別におごらなくていいけど)。女性の方が非正規雇用が多いし、大企業に勤める割合も低いし、総合職も圧倒的に少ない。どういうことなのだろうかと思って、調べてみた。

 『日経新聞』の記事は下記の通り(資料1)。単身勤労世帯の「可処分所得」(実収入から税金、社会保険料などを引いた手取り収入)が、はじめて男性を上回ったというもの。
 だが、この報道は不思議なことに、「実収入」については数値を載せていない。この記事の元になった総務省「平成21年全国消費実態調査」(資料2)を見ると、30歳未満の勤労単身世帯の平均実収入は、男性253952円、女性251290円。若干だが男性の方が多い。しかも、同記事は、09年の20代後半の男女の年間の平均給与の差は66万円という国税庁の調査を載せている。66万円の差はかなり大きい。
 『日経新聞』が言うように、若年層の男女の格差はかなり縮まったが、女性の収入が男性より多くなったわけではない。「若年層収入、女性が上回る」という見出しは誤解を生む。

 また、『日経新聞』は、単身勤労世帯であっても、年齢が上がるにつれて、男女の収入の格差が広がることについて全く言及しない。前掲の「全国消費実態調査」では、男性の収入が急減する60代以上を除き、年齢が上がるほど男女の収入は大きく開いていく。最も差の大きい50代は、男性570万に対して、女性300万にすぎない。

 もっとも、これは今の50代の話であって、若い世代が50歳になる20年後にはかなり変わるかもしれない。だが、以下のデータを見る限り、どうもそう簡単ではなさそうだ。


女性全体の賃金は男性の6〜7割

 上記は、単身勤労世帯についてだが、女性全体でみると男女の賃金格差はどれくらいあるのだろうか。資料3の図1によると、「一般労働者」*(常用雇用)の女性の「所定内給与」は、
1985(昭和60)年男性の6割、2009(平成21)年は7割である。正社員・正職員であっても、72.6%に止まる。

 常用雇用以外を含めれば、男女の差はもっと大きくなる。図2は「1年間を通じて勤務した給与所得者」の給与分布だが、300万円以下は男性22.3%、女性66.4%。700万円以上は、男性21.0%に対し、女性3.3%である。女性は圧倒的に低所得者が多い。
 図3からも、男性正社員と女性正社員、および正社員と非正社員の賃金格差がどれほど大きいかよくわかる。中高年女性の多くが非正規雇用であることからすれば、中高年の賃金格差は男性正社員と女性非正規雇用の格差である。

 図4は、こうした日本の男女の賃金格差が、国際的に見た場合、どれほど大きいかをよく表している。
 貧困率も、20代前半を除いて、女性の方が高い。とくに70代以上で高くなっている。

一般労働者は、短時間労働者以外の常用雇用の労働者。
短時間労働者は、常用雇用のうち、1日の所定労働時間か一般の労働者よりも短い、又は1週の所定労働時間か一般の労働者よりも少ない労働者。


厚生労働省「男女間の賃金格差レポート」2009

 厚生労働省は、男女の賃金格差を詳しく分析している(資料
4)。図表5を見ると、常用雇用であっても、年齢が上がるほど、男性との賃金格差が拡大することがわかる。

 図表67は学歴別に見たものである。学歴が高いほど格差は小さいものの、大卒女性でも200868.4%。しかも1986年から2008年の22年間で、1.6%しか上がっていない。大卒の場合も、年齢とともに男性との格差が広がっていく。

 高卒、中卒の場合は、大卒に比べ格差がかなり縮まっているように見えるが、上昇率は高卒7.8%、中卒4.9%である。しかも、大卒以上に、年齢の上昇によって男性との格差が拡大する。

 図表8は、会社の規模別に見たものである。これをみると、大企業ほど男女の賃金格差が大きいことが分かる。従業員1000人未満の企業では10%ほど格差が縮小しているのに対し、1000人以上の大企業は3%にすぎない。大企業は男女の格差をほとんど解消してこなかったのである。


 今日、20代前半の女性の賃金は男性の9割ほど。だが、この年代だけをみて、男性とほとんど格差がなくなったなどと言うことはできない。年齢が上がるほど格差が広がっていく点にこそ、男女格差を温存する構造がある。
 『日経新聞』の記事をもって、もはや男女の格差がなくなったなどというのは、あまりに早計にすぎる。 


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【資料1】若年層収入、女性が上回る2010/10/14 日本経済新聞 朝刊)
 
製造業不振、介護など伸びる 
09年、産業構造変化映す

 単身世帯を対象にした総務省の2009年の調査によると、30歳未満の女性の可処分所得は月218100円と男性を2600円上回り、初めて逆転した。男性比率の高い製造業で雇用や賃金に調整圧力がかかる一方、女性が多く働く医療・介護などの分野は就業機会も給与水準も上向きという産業構造の変化が背景にある。諸外国に比べ大きいとされてきた日本の男女の賃金格差も転換点を迎えつつある。

 総務省がまとめた09年の全国消費実態調査によると、勤労者世帯の収入から税金などを支払った後の手取り収入である可処分所得は、30歳未満の単身世帯の女性が218156円となった。この調査は5年ごとに実施しており、前回の04年に比べて11.4%増加した。同じ単身世帯の若年男性は215515円で、04年と比べ7.0%減少。調査を開始した1969年以降、初めて男女の可処分所得が逆転した。

 背景にあるのは産業構造の変化だ。円高や中国をはじめとする新興国の経済成長に伴い、製造業では生産拠点などの海外移転が加速。就業者数は09年までの5年間で77万人減少した。

 仕事を持つ男性の20%超は製造業で働いており、女性の10%と比べて比率が高い。第一生命経済研究所の熊野英生氏は「ボーナスの削減や雇用形態の非正規化の影響を製造業で働く男性が大きく受けた」と分析する。男性の雇用者に占める非正規労働者の比率は07年時点で3割を超えた。女性は4割以上を占めるが、増加率は男性の方が大きくなっている。

 リーマン・ショックで製造業が打撃を受ける一方、女性の比率が高い医療・介護などは高齢化の進展で労働力需要が高まり、医療・福祉分野は09年までの5年間で就業者数が90万人増加した。完全失業率もこのところ女性が男性を下回っている。

 税金などを支払う前の名目給与で見ても、民間企業を対象とした国税庁の調査で20代後半の男女の年間の平均給与の差は09年に66万円となり、04年と比べて17万円縮まった。厚生労働省の調べでは、大卒の初任給の男女差もこの5年間で縮小している。

 女性は30歳以上になると結婚や出産などに伴って仕事を辞めて収入が大きく落ち込むケースも多い。収入水準が高まることで女性が働き続ける意欲も高まれば、少子高齢化で減少する労働力人口を補い、世帯全体の消費を下支えする可能性もある。慶応大の樋口美雄教授は「結婚後も女性が仕事を続けられるような環境整備を企業や政府は進める必要がある」と指摘している。

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【資料2】平成21年全国消費実態調査 

 単身世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する結果の概要


①単身世帯の消費支出(200910,11月の1か月平均)
  男性 181746円  女性167845

②単身世帯のうち、勤労世帯の平均実収入
  男性 勤め先賃金 323863円(96%) その他4%  計337372
  女性 勤め先賃金 224505円(90%) その他10%  計249383

③若年(30歳未満)の勤労単身世帯の平均実収入 200910,11月の1か月平均)
  男性 253952円  女性 251290

④若年(30歳未満)の勤労単身世帯の可処分所得
  男性 215515円  女性 218156


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【資料3】

図1
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出典:図1
-2,4-5は内閣府『男女共同参画白書』2010(平成22)年版

図2
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図3 

内閣府『子ども・若者白書』2010(平成22)年
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図4

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就業者数,労働時間,時間当たり賃金ごとに男性に対する女性の比率を計算し,掛け合わせることで計算。労働時間や賃金格差のデータは国際的に厳密に概念が調整されているわけではないことに留意する必要がある。また,労働時間や賃金のデータは市場経済全体の男性に対する女性の比率を表すものと仮定して計算している。(『男女共同参画白書』2010年版)


図5
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【資料4】厚生労働省 雇用均等・児童家庭局「男女間の賃金格差レポート」20099

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http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku09/pdf/01.pdf